夢喰

□邪淫―act7 鬼隠し
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これはこの世の事ならず、死出の山路の裾野なる塞の河原の物語。

聞くにつけても哀れなり。
二つや三つや四つ五つ。
十にも足らぬ幼子が父恋し母恋し、恋し恋しと泣く声は、この世の声とは事変わり悲しさ骨身を通すなり。

彼の嬰児の所作として、河原の石をとり集め、これにて回向の塔を組む。

一重組んでは父の為。
二重組んでは母の為。
三重組んでは故郷の、兄弟我身と回向して、昼は独りで遊べども、日も入り相いのその頃は地獄の鬼が現れて、

やれ汝らは何をする。
娑婆に残りし父母は追善供養の勤めなく、ただ明け暮れの嘆きには酷や可哀や不憫やと、親の嘆きは汝らの苦患を受くる種となる。

我を恨むる事なかれと、黒鉄の棒をのべ、積みたる塔を押し崩す。

その時能化の地蔵尊。
ゆるぎ出てさせたまいつつ、汝ら命短かくて冥土の旅に来るなり。
娑婆と冥土はほど遠し。
我を冥土の父母と思うて明け暮れ頼めよと、幼き者を御衣の裾の内にかき入れて、哀れみたまうぞ有難き。

未だ歩まぬ嬰児を、錫杖の柄に取り付かせ、忍辱慈悲(にんにくじひ)の御肌へに抱き腕(かいな)でさすり、哀れみたまうぞ有難き。






※地蔵和讃より。
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