世界はいつも残酷で…【カネキ寄り】

□prologue.
1ページ/3ページ

『彩香ちゃん!!』

真夏の炎天下の下。ある少女が母親であろう人に手を惹かれながら,まだ昼だというのに人気のない道を足早に歩いていた…が,男の子の声によってその歩みは止められた。
“彩香”と呼ばれたその少女は声のする後方へと顔を向ける。そこには走って追いかけてきたのだろうか,息を切らした黒髪の少年が立っていた。
『…研兄……?』
『あら…,金木くん?』
彩香の母親も後ろを振り返り黒髪の少年“研兄”こと“金木研”を見て驚きの声をあげる。

金木は彩香の母親に一つお辞儀をすると彩香との距離を縮めるよう歩み寄り『…引越しするって…本当なの?』と彩香に問う。彩香はその問いに俯いていたが,暫くしてから黙って頷いた。

『…金木くん,いきなりでごめんなさいね。急遽実家に戻らなくては行けなくなってしまったの。…母子家庭の私達には父親が居ないから彩香を一人ここに置いてはいけない…。本当に今まで金木くんにはお世話になったわ。ありがとうね。 』
彩香の母親は悲しそうな笑みを浮かべながらそう言うと『ほら,彩香も何か一言言いなさい。』と彩香の頭に手をのせ優しく撫でながら言った。

彩香は小さく頷くと繋いでいた手を解き金木へと一歩歩み寄り,そして今にも消えてしまいそうな小さな声で彼に話しかけた。
『研兄…,…いきなりでごめんなさい…。』
『彩香…。』
『お家…違うとこになるの。研兄のお家からずっとずっと遠いとこなの…。』
『…………。』
『…彩香…,彩香,もっと研兄と遊びたかった。いっぱいいっぱいお喋りしたかった。ずっとずっと,一緒に居たかったよぉ……!!』

既に彩香の大きな瞳からは大粒の涙が零れ落ちていた。その涙に偽りの色はない。心から“離れたくない”と思っているのだろう,濁りの色を全く見せない透きとおった宝石の様だ。彼女の小さな手は夏物の純白なワンピースの裾を握っている。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ