コート上の天使

□無償の優しさ
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「おいっ!!!」

「焼きバカ野郎!!」




練習中何度も怒鳴り声が聞こえてきていた




『すいませ、』


「いいか!セッターはチームの柱だ!司令塔だ!お前が迷ってどうすんだよ!!」







「…なぁ」

『ん?』

「なんでお前そんな怒られてんだよ?」

『なんでって…出来てないから、でしょ』

「…、」

『なに?』

「お前普通に上手いだろ」

『そんなことないよ、いつも必死だって』




意味がわからなかった。

なんで女子の監督はこんなにぎょーざを怒るのか。
他にもっとやることあるだろ、


監督も意味わかんねぇけど
あんだけ怒られて愚痴一つこぼさないぎょーざが不思議だった。









中総体  県予選男子決勝


くそっブロック高い


振り切れるくらい速い攻撃を、

ここで終わるのか?ここで負けるのか…?

いや、俺は…全国へ行く、!




「もっと速く動け!もっと高く飛べ!俺のトスに合わせろ!勝ちたいなら!」



相手のセットポイント。

ライトへのトス。誰も触れることなくこっちのコートへ落ちた。




「影山、お前もうベンチ下がれ」




コンビミスなんかじゃない。あれは拒絶だ。
お前にはもうついて行かない、と。



俺は負けた。

悔しくて悔しくてしかたなかった。
もっとコートに立っていたかった。






『…お疲れ』

「ぎょーざ…」


控えめに声をかけられた。

こんな俺に声をかけるやつなんて普通はいない。



ちらり、と視線が泳いだ。
女子も決勝で負けた。

こいつだって悔しい思いしてる。


わかってる、わかってるけど…!



「ベストセッターか、お前はいいよな」
「…ざまあみろ、って思ってんだろ」
「ベンチ下げられてダッセェって笑いにきたのかよ」
「そういうの余計なお世話なんだよ…!」






俺って…サイアク、だ

こうやって八つ当たりして、ぎょーざまで傷つけて

なにやってんだよ…!



『…』


沈黙に耐え切れなくなって地面から視線を上げた。

俺の顔を見た瞬間ムッとした。


『もう!そんな顔するなら最初から言わなきゃいいのに』

「は…」



なんで、なんで、

「なんで、怒んねぇんだよ…!俺今最低なこと言ったんだぞ!」


『…私の勝手な思い込みだったら悪いんだけどさ、飛雄って良い奴だよ。ただ…不器用なだけでさ、』



良い奴…?俺が?


『その証拠にさ、自分が最低なこと言ったって、一番よくわかってるじゃない』



ぎょーざはエナメルバックを地面に置いてバッと両手を広げた。


「なにしてんだよ、」

『慰めてあげるって言ってんの』

「はあ?」


『暴言だって、文句だって何だって聞いてあげる。トゲトゲすればいい。マリモみたいに丸くなるまでトゲトゲしきっちゃえばいい』



だから今は甘えときなよ



同い年なはずなのに、俺より大人で、ムカついた。


けど、涙腺崩壊しそうになった俺はぎょーざを抱きしめるほかなかった。




『泣いてる?ねぇ、泣いてる?』

「う、るせぇぇっ」

『ふふ。よしよし。お疲れ様』



優しくすんな、ボケ

余計に泣けてくる








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