コート上の天使

□及川さんと反対側のコート
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「セッター迷うんじゃねえっっ!」

『…っはい!』



その子は入部して早々にレギュラーだった。


女子は男子に比べて人数は圧倒的に少なくて、ギリギリって感じだった。

それでも先輩がいる中でセッターってそうとう大変だったと思う。



「今日は終わり」

「「はいっ」」


『センパイ、一本だけ合わせてもらってもいいですか?』

「ごめんっ塾だから急ぐんだ…!」

『あ…スミマセン、お疲れ様です』


いつも一人で残ってた。

独りでネット際に立ってトスを上げて、サーブ練習



「あいつ、いっつも一人だな」

「…ね、めちゃくちゃ怒られてるし」

「どーかと思うけどな、アレ」

「監督が元セッターだから変なプライドとか思い入れがあるんでしょ。
なによりさ…

すごいカワイイよね!あのコ!」

「後輩に手出すなよクソ及川!」

「痛っ!本当の事じゃん!てかまだなんにもしてないし!」


確かに上手かったと思う。

けど天才的に上手いとか、ずば抜けたセンス、とかは感じられなかった。


ただ、すごい努力はしてたと思う。





「なんでそこに上げる!うちはライトエースだろ!決めたくないのか?!」

『でも、ブロックついてましたし…』

「ドシャットくらってもないのに弱気になるな!」

『はい、』



「セッターもっと走れ!もっと飛べ!上でボールを触れ!」





「なーんかさ、こんだけセッターセッター言われると、俺まで怒られてるみたいな気分になるよねぇ」

「てめぇ集中しろよ」

「してるってば岩ちゃん…!」




次の日もその次も

あの子は一人居残ってボールを触って、トス上げて


健気だった。


ノートに書き込みをしながら、時に前のページをめくったりして



「飛雄ちゃん、あの子知ってる?」

「?ぎょーざですか、?」

「ふーん、」

「…及川さん、サーブトスのコツを」

「嫌だね!」

「…、」



一生懸命な彼女を反対側のコートからいつも見ていた。









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