コート上の天使

□先輩と後輩
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「ほら、ズボン履いて」

『あ、ありがとうございます』



誰のかわからないジャージを引っ張り出して投げてよこした。

当たり前だがぶっかぶかで、ウェストの紐をおもいきり引っ張ってしばった。




『なにニヤニヤしてるんですか…』

「だってぎょーざちゃんとバレーとか、超久しぶり!」



靴履いて外にでる。



『中でやらなくていいんですか?』

「だって気が散るでしょ。ぎょーざちゃんが」




…確かに。



『私あれ以来バレーやってないんで、へたくそになってても文句言わないでくださいね』


「大丈夫!へたくそなほうがアップになるし」



いまだにこにことしてる及川さん。

久しぶりにボールに触った。

なんだかむず痒い気持ちになった。


山なりにボールを投げ、オーバーで及川さんがとる。

放たれたボールが綺麗に弧を描いて私の真上に落ちてくる。


両手を上げ、三角の窓からボールを見る。

くっと重みを感じ、次の瞬間には手から離れていった。




「相変わらず、きれいじゃん」

『そう、ですかね』

「うん。なーんか思い出すね。居残って練習してたこととかさ」






そうだなぁ…懐かしいな




なんてしみじみしてたら急に及川さんがスナップを効かせて打ってきて、慌てて腰を落としてレシーブした。


『ちょおっと!急にヒドイ!』

「あはは、ナイスレシーブ!さすがだね〜」






オーバー、アンダー、軟打を混ぜながら動く。


ボールの指への吸い付き感とか、やっぱりブランクを感じたけど、やっぱり…



「楽しい?ぎょーざちゃん」

『はいっ』




ただアップに付き合ってるだけ、なのに




楽しい。







「ところで、さ」

『?』

「どうして取りにきてくれたワケ?」




ですよね。自分でもあんなに頑なだったのにって思う。

けど、認めてしまえば簡単なことだった。

認めたくなかっただけで。



『…バレー、好きだって思えたから』

「ぎょーざちゃんが自分でそこまでたどりつけたとは思えないんだけど」



…さすが及川さん

鋭いっていうか、なんていうか
飛雄のようにはいかない


下手にごまかせないな





『飛雄のプレーを見て嫉妬したんです。

決勝悔しくなかったのかって聞かれて、余裕なくなって挙句、怒鳴って…。

そこから考えて、気づいたんです。嫉妬するほど未練あるんだって』




ぽんっとトスを上げる。



ボールは返されることなく、すぽんとキャッチされた。




「…じゃあ、変えたのは飛雄ってわけだ」



面白くない、って顔してるけど
実際飛雄のおかげでここにいる



「ぎょーざちゃんは捻くれっぽいところあるから、力任せにいっても心閉ざしちゃうかもっていうのが及川さんの見解だったワケだけど、強引なほうがよかったんだね。

次からそーする」




『…えっと、どういう』



「さあて!そろそろ行くかなー。ちゃんと及川さんのこと見ててよね」



ぽーん、とボールと脱いだ上着を投げてきて、体育館に戻って行った。

慌て私も後を追って、借りたジャージと及川さんの上着を綺麗に畳んで中に入った。







二階にわざわざ戻る点数でもないし、開いてる扉から見ることにした。

どうやら及川さんはピンサーで入ったみたいだ。




すると、ビッとツッキーを指差したように見えた、



ボールが高くトスされる



飛雄が何回もコツを教えて欲しいと頼んでもかなわなかった、お手本のサーブトス。

きゅっと踏み込み、鋭い音とともにボールは真っ直ぐツッキーへ。




『…こわ、』


触りはしたものの、レシーブしたボールは大きくそれていった。



威力はもちろん、一番怖いのはあのコントロール

もはやスパイクサーブ

強いサーブを打てる人はいくらでもいるけど、コントロールをここまで兼ね備えたサーブをうてる人は、県内ではなかなかいない。




もう一本撃ち込まれて、これでサービスエース2点目


『つっきー…』


「大王様!俺もいる!俺もねらえ!」



日向くんは自分も居るぞってことを言いたかったんだろう。

それにしても、あのサーブを目の当たりにして、自分をねらえって言えるのはすごい。

多くの対戦相手があのサーブで心を叩き折られるのに。
願わくば自分のところに来ませんようにって。



三本目、ようやく上がったサーブカットはチャンスボールになって青城コートに返った。



うーん、クイックかな。

決まっちゃうかな、この攻撃…





『…っあ!』


「ワンタッチ!!」





小さな日向くん

それをカバーする驚異的なスピードとジャンプ力




そして飛雄のズバ抜けたセンスとテクニック





合わさった攻撃は、やっぱり超人的で
圧倒させられた





25-22



勝者 烏野高校













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