コート上の天使
□宣戦布告
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「ぎょーざちゃんっ」
『あ、お疲れ様です。及川さん』
ぺこり、と律儀に頭を下げられた。
俺よりずっと低い頭を撫でて、
「ちょっと待っててね、今取ってくるから」
『…!はい』
察したのか少し緊張した顔をした。
「及川さんが戻るまでいい子にしててね」
『…はいはい、』
軽く流された。
なんだろう、ぎょーざちゃん最近そっけない…!
前は
子どもですか私はっ!
…とかぷんすか言ってきてたのに。
「へぇ〜キミが及川がおきにのぎょーざチャン?」
「かわいいじゃん。さすが天使」
「ちょっと!マッキー!まっつん!ぎょーざちゃんに手出さないでよね!」
『も〜及川さん!いい子に待ってるから早く取ってきて!』
「!う、うん」
かわいく催促された俺は部室に走る。
部室棟の階段を一段一段上がる。
気に入らない点は多くある。
なんで烏野なんだとか、なんで素っ気ないんだとか、
一番は何で飛雄なんだ、ってとこ。
傷ついたぎょーざちゃんを三年間慰めてきて、引退試合で負った傷も、自分を許せない気持ちもこれからも、俺が溶かしてあげるはずだった。
なのに、
なにをどうやってこんなすぐに頑なだった
ぎょーざちゃんを変えたっていうんだ。
俺がしたかったことを飛雄はやってのけたっていうのか。
「ほんっとムカつくよね…」
バカな天才はやっぱり嫌いだ
部室のロッカーをガガン、と開ける。
こいつがここに居るのも今日で終わりか。
それには確かに焼きぎょーざと名前があって、県内で一番だってことを表している。
一式を紙袋にまとめて部室を出た。
体育館に向かう途中、烏野に挨拶してなかったことを思い出す。
「いくら日向と影山のコンビが優秀でも、正直周りを固めるのが俺たちじゃまだ弱い。悔しいけどな」
主将の声がして足の向きを変えた。
ちょっとばかしお別れの挨拶でもしてやろう。
「お〜さすが主将。ちゃんとわかってるね〜」
「なんだコラ、やんのかコラ」
「そんな邪険にしないでよ〜。アイサツしに来ただけじゃ〜ん。ちっちゃいキミ、最後のワンタッチとブロードすごかったね」
「え、あ、えへへ」
あの飛雄の才能を開花させたんだ。
ほんと…このチビちゃんは厄介だ
「次は最初から全開でやろうね。あ、そうそうサーブも磨いておくからね。
キミらの攻撃力は確かに高いけど、最初のレシーブがぐずぐずじゃすぐに限界がくるんじゃない?」
あ〜俺ってばなんて優しいんだろう。こんなことまで助言してあげるなんて。
ま、それも全部、
「俺はこのクソ可愛い後輩を公式戦で同じセッターとして正々堂々と叩き潰したいんだからサ」
ちゃんと生き残ってもらわなきゃ困るんだよ
「インハイ予選まで時間ない。どうするのか楽しみにしてるね」
「お、及川さん!」
やーっと話しかけてきた。
さっきから何か言いたそうにしてるのバレバレなんだよね。
お前が聞きたいのはひとつ。
「なに?ぎょーざちゃん待たせてるんだけどー」
「ぎょーざと…どういう関係ですか、?」
予測通りの質問に思わず口元が緩む。
「なーんにも難しいことなんかないよ?飛雄ちゃん」
今はまだ、ね
「先輩とかわいいかわいい後輩だよ」
わざと核心には触れずに話す。あからさまにイラついてそうな顔を見るのは面白い。
「…お前が何言ったのか知らないし、すごい腹立つけど、
やっと自分が県内一のセッターだって認めてくれるみたい」
「…!」
今回はぎょーざちゃんが心開いて結果オーライ、だけど
「ぎょーざを傷つけるようなことになれば、俺は許さないからね。飛雄ちゃん」
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