コート上の天使

□決意と引き止め
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「ぎょーざ」

『あ、英。お疲れ』



相変わらずあんまり汗かいてなさそうな英。




「…久しぶりだね」

『うん。元気?』

「元気じゃなかったら部活なんかしないでしょ」


相変わらずの返答にそれもそうか、と笑ってしまった。



「烏野行ったんだ。青城来るかと思った」

『うん、まあね』

「…王様追いかけたの?」

『まさかー、そんなわけないでしょ?だいたいアイツどこ行くか知らなかったし』


「ふうん…及川さんと仲良かったんだね」

『え、及川さん?うーん…仲良い、のかなぁ?』

「ただの先輩後輩には見えないけど」

『…まあ、結構お世話にはなってる、ね。うん』

「ふーん、」





…聞いてくるくせに、興味なさそうな返答も相変わらずだな、







「ぎょーざちゃーん」




軽やかに走ってくる及川さんが見えた。




「及川さん来たし、じゃあね」

『あ、うん』






「お待たせ〜」



正面まで走ってきたかと思えば、お腹に腕が回って体がふわっと浮いた。


びっくりして思わず及川さんにしがみついた。
くるり、とそのまま一周回って、私を下ろした



「ぎょーざちゃん、大胆だね〜」

『びっくりしただけです!急に持ち上げないで!』

「かわいいなぁもう」



あんなの予想外だし、普通しないでしょ…!漫画か!?



「ちゃんといい子にしてた?」

『英といい子に待ってました』


「…ぎょーざちゃん国見ちゃんのこと呼び捨てだよねー」

『だって くにみ ってなんか言いにくい』




くにみ って皆よくスムーズに言えるよね、
なんか噛んじゃう





「ま、いいや。はいっ」


差し出されたのはピンクの紙袋。

ピンクの紙袋については突っ込まないでおこう。



受け取ると、それなりの重さがあった。
中を覗いて、あれを手に取る

見るのも、触るのも、あの日以来。

正直、もやっとしなくなったとは言えない。

最後の1点、あの時の自分の感情は許されるものじゃない。


けど、なんでそこまでして勝ちたかったか、
なんで三年間、あのチームでやってこられたのか、
例え無謀だと思われようと、続けてこられた理由
それが、わかったから。




「これでやっと、県内で一番のセッターだね」

『そう言われると恐縮ですが、』

「なーに言ってんの。簡単にとれる物じゃないよ?」

『…』


「うん。…よかった、ほんと」








及川さんは性格が悪い。


というか、少々曲がっている。

そこがプレーで良い方向にでてるとつくづく思う。



けど、


こうして頭を撫でてくれる及川さんは、

味方だよって言ってくれる及川さんは、





よくわからないくらい 優しい



あの時も、あの日も、あの瞬間だって…

逃げたくなっては泣きついて、辛くなっては泣いて、立ち止まりたくなっては泣いて、引退した時も泣いて、泣いて、泣いて…

泣いてばかりだった。

及川さんと会うたびに泣いていた気がする


味方だよ、って言葉に甘えて全部頼ってきた。


自覚してたつもりだけど、改めて及川さんに頼ってやってきた三年間だった。




『ありがとうございます、』

「ま、飛雄ちゃんに感化されちゃったってとこが気に入らないけどね」

『でも…及川さんのおかげです、ここまでこれたの。及川さんが、居てくれたから、』


言って恥ずかしくなった。本音に変わりはないが、本人を前に素直になり過ぎた。



「え、どうしたのぎょーざちゃん!急にそんな」

『あーもう!ごめんなさい!ごめんなさい!私も恥ずかしい!』




顔に熱が集中した。

体内の血液がどっと廻ってすごく熱い。


けど、頭はわりと冷静で




やっとけじめがついて、

ようやく及川さん離れできそうだ





そんな風に思ってた。




『色々お世話になりました、』





あなたには本当に感謝してるんです、こう見えて



素直に、ごく自然に、頭を下げることができた。












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