コート上の天使

□直射日光
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「ね?ね?焼きさん行かないっ?」

『え、んー…』

「エース!見に行こう!」



…整理しよう。


事の発端は恐らく昨日の部活。

いろいろ事情があって部活謹慎だったリベロの西谷先輩が戻ってきた。
身長こそ私と同じくらいで、小柄すぎるくらいだけど、三年生からも信頼されていることがすごくわかったし、後輩にも好かれる人柄であることは感じられた。
少々騒がしい…いや、賑やかな先輩ではあるが。聞くところではあの飛雄のサーブを完璧に返したらしいので、リベロとして相当優秀な選手であろう。


そして、話題に上がったのが”アサヒさん”だ。西谷先輩によると、烏野のエース。一応。だそう。雰囲気からしてひと悶着あったんだろうなーってのはすぐにわかった。


日向くんは小さな巨人に憧れて烏野に来たらしく、やたらエースというものに思い入れがあり、現烏野にもエースがいると知って興味津々なのだ。


そして廊下でばったり日向くんに会ってしまった私は、好奇心に突き動かされた彼に誘われているという状況。

はい。整理おわり、と言えないのが何とも厄介…





『いや、でもさ、見に行くってどうするの?』


「どうって…部活に来てもらう!」

『…詳しくよくわかんないんだよね?何で来ないかも』

「うーん…わかんないけど、やっぱエースとバレーしたいし!先輩たちが元気ないのも嫌だし!」




…躊躇とか迷いってものがないのか、この子


そもそも私が行っても本当に意味ないと思う。

会ったことすらない一年だし、女子だし、マネージャーだし。



こういうのってやっぱ…違うでしょ、





「焼きさん?」

『う〜ん…ごめん。そういえば放課後呼び出しされてるから日向くんのエース見学付き合えないや』



咄嗟に出た嘘をつく。




「うわーまじかぁぁ…」




残念そうな日向くんには悪いけど、




『ほんとごめんね…?付き添いできなくて』




自分の身を守るためには嘘だってつくし、演技もするもん



「え、あ、おっ俺も急に誘ってゴメン!」



うん。ここまでくれば大丈夫。





『代わりと言ってはなんだけどさ、飛雄とか連れていきなよ』

「え!影山ぁ!?」

『バレーに関係してれば、なんだかんだ付き合ってくれると思うけど。
…なんだかんだは言うと思うけど、』

「うぐ、」

『万が一嫌だって言ったら私がそう言ってたって』

「うぅん…わかった。影山に言ってみる」




納得したのか日向くんはさっそく飛雄のクラスに入っていった。


ふう、と思わずため息。
なんか、真っ直ぐすぎてツライ





「呼び出しとか嘘デショ」

『…バレた?』



頭上から降ってきた声に、顔を向けると予想通りの人物。


月島蛍くん
昨日潔子先輩に見せてもらった部員名簿でやっと本名を知った。


まさかこんな綺麗なお名前だとは思ってなかったから、今度から蛍くんと呼ぶことにした。

本人に確認はまだとってないけど、




『あれ、山口くんは?』

「…そんないっつも一緒だと思わないでくれる?」



いやいや、いっつも一緒じゃん。




『あー…飛雄に怒られるかなぁ』

「なんで断ったの」



なんで?

まさか蛍くんに言われるとは。

あんなの断るに決まってるでしょ、余計なことに僕は首突っ込みたくないってタイプなのに。




『…女で、マネージャーの私ができることなんてないでしょ。
なにがあったのか知らないけど、そういうのって思いを共感しあえる仲じゃないと何言っても響かないもんだよ』



コートの中で起きたことは、コートの熱さを知る者で。

所詮私は部外者なのだ




「…王様と仲良いからもっと脳みそ筋肉かと思ってた」

『はあ?なにそれ』

「意外と現実主義的なんだね、キミ」

『そっちも冷めた現代っ子じゃん、蛍くん』



さりげなくぶっこんだら案の定ちょっとびっくりしてた。

ちょっと。ちょっとね。



『月島蛍って綺麗な名前だよね。
月に蛍雪の功のケイ。だから蛍くんって呼ぼうと思うんだけど、どうかな?』

「…勝手にすれば」



ぷいっと隣の教室に帰ってしまった。


勝手にしろってことはオッケーだ。蛍くんはそういう人。




さて、日向くんは飛雄を説得できただろうか。













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