コート上の天使

□頼もしい顧問
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日向くんに嘘を言ったからには、あまり早くに部活に行くわけにはいかない。


顧問の武田先生に挨拶してなかったことを思い出し、職員室に向かう。


一応潔子さんに遅れることをメールすれば、



了解。待ってるね。



とシンプルな返事が返ってきた。


ドアを三回ノックする。

二回だとトイレ入ってますか〜の確認になってしまうとどこかで聞いてからは三回にするようにした。



『失礼しまーす、武田先生いらっしゃいますか』

「あ、今お電話中なんだよね」

『あー…、そうなんですか』




出直すか、と思ったら大きな声がした。


「〜よしっ!よし!!」

「あ、終わったみたいよ」


なにかいいことでもあったんだろうか。

少し声が大きすぎて教頭に注意されてたけど、




「あ!ごめんね!待たせちゃって」

『いえ!新しくマネージャーとして入部した1年5組の焼きぎょーざです』

「うんうん!清水さんから話は聞いてたよ。よろしくね!」



武田先生は1年の授業はあまり持ってないから、直接はよく知らないけど
武ちゃん  とあだ名で親しみを持たれているのは、人が良さそうな感じだからなんだろう。




『何かいいことでもあったんですか?』

「!そう!そうなんだよ!GWの最終日に練習試合が組めたんだ!」

『練習試合!ど、どことですか?』

「東京の音駒高校だよ!昔ウチと親交が深かったらしくて、どうしても試合してみたかったんだ!ビッグチャンスだよ」




音駒はよくわからないし、聞いたこともない高校。
だけど東京からわざわざ来るとかすごい。


そして試合を実際やるのは先生じゃないのに、自分のことのように楽しみにしてる。

相当いい人だな、と改めて思った。






「そうだ。焼きさんすごいんだってね!中学生の時は県ナンバー1のセッターだったとか。」

『は、い?』




驚いた。

なんで知ってるんだろう。確かにベストセッター賞は貰ったけど、一度だけだし…

しかも武田先生はバレー経験者じゃないはずなんだけど、




「とにかくトスが素晴らしいと。上げられた側からすると無重力空間にいるような、スローモーションというか…そんな風に見えるらしいですね!」



僕も見てみたいです



とにこにこの武田先生。





『ず、随分お詳しいんですね…』

「影山くんが教えてくれました」




その名前を聞いてふ、と肩の力が抜けた。

なにをそんなにしゃべることがあろうか…キミ
すごく照れくさく、恥ずかしい




「珍しいですよね、あの影山君がたくさん話してくれたんです。
僕すごく楽しみにしてました。影山君がそんな風に言う子がバレー部の一員になってくれることに」




きらきらしながら思いを伝えてくれる武田先生がちょっと日向くんと被った。



「僕は経験者じゃないから技術面で皆の力にはなれないけど、焼きさんが入ってくれてより一層内容の濃い練習ができると思うんだ」




ぐっと拳を握る先生。若干鼻息も荒い。

けど、熱心だ




『武田先生は十分すごいと思います。なかなかこんなに一生懸命にやってくれる人、いないです。それにコーチも探していただいてるとか…』


「え、あ、うん。まだ説得中なんだけどね」





大地さんから青城との練習試合を取ってきてくれたのも武田先生だと聞いていた。

そしてコーチも何とかして見せる、と。



人を支えるって色んな形がある。

たとえ経験者じゃなくても、技術がなくても。


こんなに良くしてくれる先生がいるんだ。
私も私なりの支えかたを





『私頑張ります。』









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