コート上の天使

□エース
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なんとなく部活にも慣れてきた。

…個人的に


傍から見たら至らないところもまだまだあるんだろうけど、
大体仕事も覚えたし、部員さんの名前と顔も一致してるし、ざっくりした性格なんかも
わかってきた。


こうしてまた朝練の時間に起きるのも慣れてきた。




『お疲れ様です』

「おー!ぎょーざお前スゲーな!」




ばしん、と背中を叩かれ若干よたる。

西谷先輩は小柄だけど、豪快だ




『な、なにがです?』

「視野!めちゃめちゃ広いな!」

『…そうですか?』

「おう!流れ弾も躱すし、サーブ練中にコートの中入って一本も当たらないってすごいぞ!」





サーブ練習中はコートにボールが溜まるから、ちょくちょく流しに行っている。


でも、中学からやってることだし、特に自分は視野が広いなんて思ってなかった。


『はあ、ありがとうございます』

「お前朝テンション低いなー!ちゃんとメシ食ってるか?」




…先輩がやたら高いんですって。

それにテンションにメシとか関係あるのかな…










私のテンションは時間が経てば上がってきて、すっかり通常運転。



部活見てるのも楽しいけど、クラスで普通に女子高生やってるのも楽しい。

時折廊下から日向くんの声が聞こえたり、蛍くんが通り過ぎるのが見えたり。

あの先輩がかっこいいだの、初デートはどこ行こうだとか。


自分の席に座ってるだけで色々な情報が入ってくる。



私って割と観察するのが好きなのかも、







昼休みになれば飛雄が押しかけてきて、聞いてもないのにあさひさんのことについて話し始めた。




「試合で潰されたらしい」

『ふうん、』



エースみたいだし、マークされるのは当たり前だと思う、けど




「ちょうど一か月前の試合から部活に来なくなったって菅原さんが」

『一か月ねぇ…』




一か月、毎日やってたところからぱったりやらなくなると

戻った時大変そう。まあ…戻れたら、だけど




「…なんだよ」

『ん?』



目線をやれば、口を尖らせていた。




「聞いてんのかよ」

『聞いてるよ?一か月前の試合で徹底的にブロックされてなにもできなかったんだよね』

「聞いてんなら気のない返事やめろよ」

『あぁ、うん。ごめんごめん』




そう言ってもなんだか不満層にしてる飛雄。


たぶん、私がこの件に関して何も言わないから。

意見しないから、どう思ってるのかとか聞きたいのかな。




『…なに?』

「べ、つに」



わかってるクセになに?とか言っちゃって


私もなかなかいじわる、といか性格が悪いのかも




『……止められない攻撃なんてない』

「!」

 
ぼそ、と私が言えば、ストローを咥えたまま前のめりになる飛雄。



『絶対に決まる攻撃なんかない。けどその逆だってある』



絶対に決まらない攻撃なんてない。勝負に絶対、なんてない。

だから、今ダメでも次は決まるかもしれない


『それに、責任感じてるのはエースだけじゃないでしょ』

「おう」




コクコクと頷く飛雄



だったらあさひさんは一人じゃない。



『ま…私が言えることじゃないけど』


「…お前さ、それやめろ」




飛雄は空になったパックを机に置いた。



「別に、間違ったこと言ってねぇだろ。もっとこう…堂々としてりゃいいんだよ!」

『あぁ…うん、』





そういうわけじゃない、んだな


自分に自信がないとかそういうんじゃない。もちろん自信があるわけじゃないけど、

私のやってきたことと、今言ってることが矛盾してるのわかってるから。

立派な助言に見合ったプレーを私はしてきてない。


説得力に欠けるんだよね。私が思うに







午後の授業も、とりあえずノートと教科書を広げて窓の外を見る。


校庭では体育をしていた。陸上かな。

やたらちょろちょろしている子がいると見ていたら日向くんだった。


朝練あんだけ動いて、体育もこんなに全力でよく体力もつなぁと感心してしまう。






マネージャーとして関わらせてもらって、確かにちょっと前までのモヤモヤは無くなった。


一生懸命バレーやってるみんなを見るのは好きだ。



けど、選手と同じじゃないから、踏み込み過ぎちゃいけないと思うし。

ずけずけ立ち入っていい場所じゃない。真剣であればあるほどそう。




わかってるけど




それでもボール拾いとかしてると

偶に指先が疼く



自分の欲張りさに呆れる。


やらなくていいのに、やりたい


都合良すぎな自分がちょっと嫌になる。







あまり綺麗とは言えない黒板の字に、先生の声がボアボアと聞こえて
思わずため息が出た。




嗚呼、暇だ


及川さんにちょっかいでも出そうかな





鞄からスマホを手にすると通知が来ていた






【授業つまんなーい。ぎょーざちゃん今度デートしようよ!】





なんとも可愛らしいスタンプ
私が好きなキャラ。





この人ほんと怖い
タイミング良すぎ
どっかで見られてんのかなってくらい




じわり、と何かが自分の中で広がって
自己嫌悪に陥る手前で踏みとどまった。











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