コート上の天使

□コーチの計らい
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散々しつこく先生に説得され、挙句に音駒が来ると煽られた俺はついに承諾してしまった。




「今日からコーチをお願いする烏養君です!」




声高に俺を紹介する先生を横目に体育館を見渡す。


何にも変わっちゃいなかった。

熱気も、空間も。




「坂ノ下の兄ちゃんだよな?ほんとにコーチ?」


「烏養君は君たちの先輩で烏養監督のお孫さんです!」




ええぇっ と部員から声が上がる。

いろいろ急で戸惑ってるみたいだが、



「時間ねぇんだ。さっさと始めるぞ。お前らがどんな感じか見たいから6時半から試合な」



相手は、烏野町内会チームだ。どれほど食らいつけるかな。










『すいませーん、戻りました…え?』


「あ!お前!!」




聞き覚えのある声に振り返るとジャージ姿のぎょーざがいた。




『え、烏養さん何して…』

「それはコッチの台詞だ!」

『あ!まさか先生が言ってたコーチ?!』




あんだけ悩んで、苦しんでたぎょーざが居た。

しかも普通にジャージで。


北一以外のジャージは見慣れてないからだろうけど、なんか似合わねぇ。




「音駒戦までだからな」

『そうなんだ…残念、』




ぽろり、と呟いてすぐ横でアップをしてる奴らのボールを目で追い始めた。

ここに居るってことは丸く収まったんだろう。



長袖長ズボンのジャージに、靴は学校指定のか何か。

とりあえずバレーシューズじゃない。






なんだ、意地っ張りかよ







手元を見ると手を握ったり、開いたり忙しない。


ボールを追う目も、ノートを真っ黒にしながら死んだ目をしてたあの頃とは違う。







もしかして…こいつ、










「……おい、」


『はい?』


「なに普通にマネージャーやってやがる」

『へ…?』



ぽかんとするぎょーざ

体育館の扉を指差してはっきり言ってやった。




「今すぐバレーシューズとウェア一式持って来い!」

『え、ええっ?』

「もたもたすんな!お前家近いんだろうが。人足りねぇんだ、お前もコート入れ!!」

「えっ」

「焼きさん入るの!?」




動揺はしてたがぎょーざは俺をじっと見て、言わんとしてることを悟ったみたいだった。


こいつはこういうところに長けてる。




大きく息を吸って、吐く。そして、頷いた。




『ごめん、日向くん。ちゃりんこ貸して?』


「いいよ!全然!だから早く行ってきて!バレーやろう!」

『ありがとう』




鍵を受け取って持前の瞬足で駆けて行った。



まったく、素直じゃねーな

認めたなら自分の思うように、やりたいようにやりゃいいんだよ





「烏養君は焼きさんとお知り合いなんですか?」

「知り合いっつーか、なんてゆうか…。中学の時から知ってはいるな。試合も見たことある。」

「へぇぇ。今日は焼きさんのプレーが見れるんですね」



僕も楽しみです、と



「僕”も”?」

「はい。一番楽しみのは影山君なんじゃないかな」




影山


先生に言われた方を見るとばっちり目があった。




「影山!焼きさんとバレー楽しみだな!」

「う、うっせぇボゲ!お前ちゃんとしろよ!日向!ボゲ!」

「こーら、影山」





…とりあえず、口は悪そうだ。




「影山君は焼きさんと同じ中学だったそうですよ」

「じゃあ…北川第一か」




相当うまいんだろうな




そうこうしている内に集まってきた町内会チームの面々。




「悪いなお前ら急に来てもらって」





平日のこの時間だ、全員は揃いそうもない、な。


訳ありそうなリベロを借りて、あと二人…







「あ!あさひさんだ!あさひさぁーん!!」

「げっ」







遅れてきた野郎に声かけてさっさとアップをとれと急かした。


ウィングスパイカー。タッパはある。期待できそうだ







「…お前、それ」



手にしてるものを指さした。




「え、あ、これはええっとその…」



見覚えのあるようなノート


ぎょーざは決まって同じノートを使っていた。


同じ青色の表紙の大学ノート




「ま、マネージャーの子が…」



黙って手を伸ばすとおずおずと差し出してきた。




中を開くと、


丁寧に並ぶ文字。

四角の中に並べられた丸六つ。
フォーメーションか。


練習メニューに、スパイカーの好みやクセ
各選手の得意なプレー
ひと言




読みながら口角が上がっていくのが自分でもわかった。




「う、烏養君?」


「…やるじゃねーの」





以前店に置き去りにされたノートが一冊ある。

内容は同等。いや、それ以上にこれは充実している。




気合いだけでどうにかなるもんじゃねぇけど、気持ちの面で変わると不思議とプレーも変わる。






ノートを開いてわかった。

今ぎょーざはあのころよりずっとバレーを見れている。












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