コート上の天使

□ピンク色の帰り道
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外は暗くなっていた。


時間が押してる中試合をしたんだ。当たり前か。



なんとか東峰さんも菅原さんも西谷さんも丸く収まったみたいだ。

これでチームがやっと揃う。





「ぎょーざちゃんお疲れ」

『スガさん!お疲れ様です』




声がするほうへ自然と目がいった。

制服に着替えたぎょーざ
全然なまってなかった。



「あ、あの焼きさん?だっけ」

『あさひさん。お疲れ様です』

「これ、ノート…」

『あぁっ!!』



珍しく焦った声。
ノート…気になる。



『……中身見ました?』

「あぁ…うん、ゴメン」




盛大に溜息をつく

ますます気になる



「でも、それ見て勇気づけられた、っていうか…

頑張らなきゃいけないなっていうか…

えーっと。とにかく、ありがとう」


『…それなら、いいです。あさひさんの役に立てたなら。』

「え、あ、」

『私なんだか感動しました。エース復活のあの瞬間』

「は、恥ずかしいな…」




ぎゅっとノートを握り、笑うぎょーざ

なんか面白くない




「影山」

「!お疲れッス」

「なんつー顔してんだよ」




菅原さんはすっかり振り切れたような顔をしてる、ように見える


疲れたなー、なんて言ってるけど




「話したいなら行けよ」

「はあ…?」




あれだろ?って指さすほうには
東峰さんとぎょーざ


うっと声が詰まった。



「あ〜あ、もう暗いしなー。

お前が行かないなら俺がぎょーざちゃん送ってもいいんだぞ」




そんなこと言われた時には自然と足が向かっていた。







「東峰さん!!」

「えっ、あ、影山」

「俺コイツ送るんで!」

『え?』




ぎょーざの荷物と腕を引っ掴んだ。



「じゃあ失礼します!お疲れっした!」

「ああ、うん。お疲れ…」









ぎょーざの家はもう知ってる。

中学の時にも一緒に帰ったことあるし。


つーか、こいつ腕細。こんなんでよく男子のスパイク上げてたな。
折れるんじゃねーの?



自分が考えていたことに、ふと我に返った。


そこで俺は腕を掴んだまま歩いてることに気が付いて慌てて離した。





『あっは。やっと気が付いた』

「るせぇ、」

『荷物、もらう』

「…いい、持つ」

『そ?』




焦って離した俺とは対照的に、ぎょーざはいつもの余裕顔

でも、ちょっと機嫌良いの、か?




『今日楽しかった』

「!お、俺も…!」



そう答えれば満足そうに笑った。



『いやぁでも最初はビビったな。男子の中でリベロって』

「普通にレシーブ上がってたじゃねぇか」

『うん、コート入っちゃえばね。なんかいけた』



けろり、と。さも簡単だったと言うように。


女子ってハンデを微塵も感じさせなかった。
強烈な強打も、ブロックフォローも
他のメンバーが攻略できなかったジャンプフローターも
レシーブできていた




「フォローはともかく、よく強打何本も上げたな」

『うーん…まあ、ね。中学の成果がここで発揮されてもねーって感じだけど』

「中学の成果?」

『居残り練習。及川さんとか岩泉さんとか重いんだよね、あの二人の球って』




聞き捨てならない名前がでた。




「…及川さん?」

『?うん。よく練習付き合ってもらってて』

「ハア?!」

『あ、そっか。飛雄は強制的に帰らされてたから』





北川第一の男子バレー部は基本的に自主練は認められていた。

でも一年は制限があって、時間になると帰らなきゃならなかった。


毎回帰り際にボール拾いながら及川さんのサーブを見てた。



『女子はその辺適当だったからさー。もう時効だからいいよね』



時効っていうか

いろいろ腹立たしい



教えてくださいって言っても
いやだね、とか
わけわかんねぇこと言われてはぐらかす
及川さんを思い出してムカっときたし



及川さんとぎょーざ




それだけでなんかムカつく。





練習の後、こうして一緒に帰ったりしたんだろうか


毎日、一緒に…





『それにしてもさ、今日やっとちゃんとバレーしたって感じがした。

コートにいる人の意図が読み取れて、それを受けて自分のプレーをして…

当たり前だけど、そんなことも見失いながらやってたから』




ムカつく、けど
ムカつくんだけど、



俺に笑いかける顔を見てると
むかむかがどっかに消えていくみたいだった





『それに飛雄とバレーできたしっ』



鼻歌でも歌い出しそうな軽い足取り



不意に手がぶつかって、喉の奥がきゅっとなった。


手に意識が集まって、上手く歩けてる気がしなかった。






…もしこの手を握ったら、
どうなる?

どう思われるんだ?
嫌がられないか?




あーくっそ、なんだこれ
何考えてんだよ、俺
そわそわすんな!

静まれそわそわ!






『…どうした?』

「…あ?」

『急に黙るから、』




少し下にある顔
かちりと目があって、がーっと顔が熱くなる



「な、んでもねぇよ!」

『ふーん…』






慌てて顔をそむける。


ぎょーざの家はもうすぐ。


それに気が付けば妙に焦った。




このまま普通に家について、荷物を渡して、
ぎょーざはいつもと変わらずに俺に手を振って…


それは、なんか…嫌だ。










「……手、!」

『え、あ、何?手?』

「手、貸せ!」





勢いに任せて口走って
差し出された、一回りも二回りも小さくて、白い手を握った。



解かれることもなく、手の甲にぎょーざの指にぎゅっと力が加わったのを感じて

心臓が跳ねた。





『さっきは勝手に腕掴んできたくせに』

「るせ、」

『飛雄ちゃん手おっきいねー』

「っ飛雄ちゃん言うな」

『照れちゃって』

「照れてねぇ!」






どこまでも余裕なぎょーざが憎らしい。

それに、”飛雄ちゃん”はあの人と被るからヤメロ。




ぎょーざはぶんぶんと繋いだ手を振って、また俺に笑う。



「…明日、」

『うん』

「スパイク練習付き合え」

『手投げでいいなら』

「なんでだよ、トスあげろよ」

『飛雄にトスとかコワイじゃん。ボゲェ!とか言いそう』

「言わねーから!」





この坂を上って、下ったらぎょーざの家


ぽつぽつとある街灯に照らされた道を行く。




練習の約束を取り付けて、時間を合わせた。


家の前で荷物を手渡せば、ありがとうと言われ
じゃあな、と言えば また明日、と俺に手を振った




背を向けて何歩か歩いた後で振り返れば、まだ玄関前にいるぎょーざ。


きょとん、としてからニコリと笑って気を付けて、と

一気に気恥ずかしくなって走って帰った。






ノートのことを聞き忘れたことを俺は自分の部屋に着いてから思い出した。












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