コート上の天使

□おやすみ前の一時
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飯も食って、風呂も入った。

布団も敷き終わってる。
でもまだ寝ない。

なにをするでもない。何でもない時間。

爪にヤスリをかけながら耳に入ってくるのはあの天井のシミが何に見える、だとか腹減った、だとか。

先輩たちも特に中身のない会話をぽつぽつとしているだけだ。




ふと、今日の試合形式の練習でのことを思い出した。

なんだか上手く言えないがイマイチだったと思う。何が、どうイマイチなのかわからない。


くそ、気になってきた。ボール触りたい。

わからなきゃ直しようがねぇ






煮詰まってきた頭に浮かんできたのはあいつだった


ケータイを手に取りメールを打つ




《もう寝たか》




何も考えずに行動に移したが
こんな至近距離で、
しかもくっだらない気の利かない内容
俺は馬鹿か、と送信してしまってから取り消したくなった


思わず頭を抱えたが、すぐにケータイが振動した。




《まだ寝ないよ》




シンプルな字面



《そっち行っていいか》



思い切って打つ、送信



《( ^ ^ )b》



…多分。いいって言ってる







大部屋を出て、突き当たりの部屋
襖は半分開いていた



「ぎょーざ、?」


『あ、来た。いーよ、入って』




大部屋程じゃないが、そこそこの広さのある部屋
なのに端っこにぽつんと布団が敷かれている。

ぎょーざはドライヤーで髪を乾かしてた。


『てきとーに座ってて。もう終わるからさ』


ぶおーんと音がやけに耳に入ってくる


北一のTシャツ着てるぎょーざ
なんかしっくりくる。懐かしい

髪の毛なんかドライヤーで乾かしたのいつ以来だ。
もう大分前から自然乾燥だ


ぐるりと部屋を見渡して、枕元にノートを見つけた。


ノート

そうだ、ノート




「これ、見てもいいか」

『えー?いいけど…、大したこと書いてないよ』


自信なさげに言うが、そんなもん関係ない

何が書いてある?
東峰さんや烏養さんが見たこのノートに



表紙を捲り、四角の中に丸6つ
理解できればノートに釘付けになった。

日付は約二週間前ごろから
ぎょーざがマネージャーをやり始めたのと同じくらい

練習内容から試合の点数
サーブで狙った位置、ミスの回数
癖、得意なプレー



なんだ、これ



「すげ…」




こんな短期でここまで見れるものなのか?

少なくとも俺はぎょーざよりも部に入るのは早かったはずなのに


ページを捲ってると背中に圧を感じた。



「…おい、」

『だって飛雄が布団で転がってるから』



言われて気付いた
いつの間にか俺は布団の上に移動してたらしい。



ふわりと香った甘い匂いにぎょーざをいつもより近くに感じた



『…重い?』

「べっ、別に」

『じゃあ乗ってる』



背中が、というか なんか
よくわかんねぇけど、 熱い




「…すげーな、これ」

『そう、かな』

「おぉ。」

『役に立てそう?』

「すげー立てる」


顔は見えないけど、なんか笑った気がする。


前から思ってたんだ

すげぇのに自信なさげ
堂々とすりゃいいんだ



「…今日、なんかイマイチだった」

『なにが?』

「俺が」

『あれ、珍しいね』

「でも原因がわかんね」

『それも珍しいね』



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今日の練習




「どう思う?」

『どうって…あさひさんとイマイチ合わないのはしょうがないんじゃないの?合わせ始めだし、』



ぎょーざは少し唸って
後ろからノートの図を指さした



『ここのローテ、かなぁ…』


東峰さんがレフトにいる時のローテーション



『一本で切りたいところなハズなんだけど、スガさんのサーブで崩されてぐだったよね』


間違いない
確かにそうだった



『うぅん。なんか私も何て言ったらいいかわからないけど、見ててここがどうにかなったらもっとよくなるなって思った』

「二段になった場合が多くなるしな、」

『うん。あ、でもね日向くんがここにいるでしょ』




四角の中の丸6つを指で指しながら




「無理だろ。ブロックどーすんだ」

『そこはフォロー前提!』


バレーについて話す



「お前、結構無茶苦茶だな」

『そんなことないよ!』





一人で考えてもわかんなかったものが
なんとなくクリアになってきた気がする

明日は東峰さんとトスを合わせよう。



『なんか楽しそうだね』

「?なんだよ、急に」

『えー?楽しそうだなって思ったからさ』




背中の重みが消えて、ぎょーざが横に寝っころがる。

ちょっと寂しく感じて、そんな自分に焦った。




『眉間に皺も寄ってないし』



思わず額に手を当てた
俺だって好きでいつもそんな顔してるわけじゃない



それに 楽しそう っていうか
ぎょーざとバレーについて話すの

楽しい、し




『…中学の時にさ、バレーの試合見に行ったよね。代表の』

「おう」

『二人であーだこーだいいながらさ。今のはトスがどうとか、カバーが上手いとか。他の人と盛り上がるポイントがちょっとズレてたけど』




二人してセッターばっか見て
もちろん試合の流れは追ってても
どうしても印象に残るのはセッターだった



『その時みたいな顔してる』



そう言われても自分の顔なんてわからない。



けど、
隣にいるぎょーざ

それだけでなんかどうでもよくなる



『ま、あんまり思いつめないほうがいーよ』


私が言うなって話だけどっ


そう笑って顔を摘まれた



「何すんだよ」


仕返しに俺も摘み返す


『ちょっ、痛ーい』

「言うほど痛くねーだろ」





くだらないやり取り


それでもぎょーざとなら満たされる気がした








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