コート上の天使

□兄の決意と妹の熱意
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「俺たち3年に来年はないです」




最後のGW合宿

最後のインターハイ予選
いつか最後の練習試合や練習

そして、最後の試合が来る



1個でも多く勝って、次に繋げたい

みんなとバレーがしたい



そのために必要なのが俺じゃなくても…
勝つためなら



「迷わず影山を選ぶべきだと思います」












烏養さんに宣言した俺は
なんだかスッキリしてしまった


できることはやろう、そう言ってくれた


あとは烏養さん、チームの皆を信じてひたすら練習するだけだ





「…あれ、」


今まで自分の世界に入ってたから気づかなかったのか、
物陰に誰かいるみたいだ



「…びっくりした、どうしたの?ぎょーざちゃん」


『あ、す、スガさん…』



姿を確認したら、やたら大きなパーカーを羽織ったぎょーざちゃんだった

丈も袖口も余りまくってる



ちらり、と泳いだ視線に
あ、こりゃあれだなと



「もしかして聞いてた?」

『ごっごめんなさい!本当に!あの、聞くつもりはなかったんですけど、ここ通らないと部屋戻れないし、あの、本当にすいませんっ』

「ええっ!そんな謝らないでよ!大したことじゃないし、全然!」



珍しくテンパった様子で、しかも謝らせてしまったものだからこっちも焦る


ぎょーざちゃんに謝られると、なんてゆうか
申し訳なさ倍増なんだよな…



「こっちこそ、情けないところ見せてごめんなー」



軽い気持ちで言った言葉だった




『情けなくなんかないです…』


「え、?」



気の抜けた返事をすれば
うつむいていた顔がぱっと上がって



『情けなくなんかないですよ、スガさんすごくかっこいいです』

「ええっ?!」

『決心するのも難しいのに、それを誰かに伝えるなんて、誰にでもできることじゃありません』



たしかに
あの思考に至るまで時間がかかったし
だいぶ悶々と一人悩んだもんだ



『チームのことを考えることができて、なおかつ自分の努力を怠らないスガさんはかっこいいです』



真っ直ぐに見つめられ
真剣な顔で話すぎょーざちゃん



『そういうスガさん尊敬できるし、私好きです』




ズコン



胸に衝撃





いや、
わかるんだ
すごく




真剣に話してくれてることは涙が出るほど伝わってる




わかってるんだけどさ…




「好きですとか照れるべ、ぎょーざちゃん」

『あっ!その変な意味では…!変なっていうか、えっと』



真剣な表情から一転して
視線がきょろきょろと泳ぐ



うん
そういう空気じゃないって
わかってたけどさ

やっぱ可愛いもんは可愛いし


俺より低いところにある頭に手を伸ばし、
さらさらとした髪を撫でた



「ありがとーな。嬉しかったよ」

『なんか、すいません…』

「なんで謝るんだよ〜」

『私なんかに言われなくてもスガさんは強いから、』


私なんか、
か…



「そんなことないよ。ぎょーざちゃんの言葉で余計自信ついた」

『ほんと、スガさん優しいですね』



少しむくれて視線を逸らされた。



素直で一緒懸命で
でも大人びてる
って思ってたけど


この子にもバレーに対する思いはあるだろうし、
他の人にはわからないようなことも感じてきたんだろうなって、

今更ながらふと思った



そりゃ天使にだってちょっと卑屈になる時もあるよな




「そんな訳だから、これからも頼むよ」


『はい…!』




うなづく姿を見て
なんとなくわかった



「なんか妹みたいだなー」

『え、私がですか?』

「うん。可愛い妹ができたみたい」



そう、
こうやって頭を撫でたくなる感じ



『じゃあ、スガさんはお兄ちゃんですね』



お兄ちゃん

悪くないなー…って
何考えてんだか




『スガさんがお兄ちゃんだったら皆に自慢しちゃいます』



ぎょーざちゃんが本当に妹だったら
必要以上に干渉してウザかられそうだな、俺…

だって可愛いんだもん

心配じゃん




「俺も自慢の妹だね」



悪い虫が付かないか
日々気がかりで疲れそうだけど

あ、ここまできちゃうとお父さんか




するとバイブが鳴ったのか、ポケットからスマホを出したぎょーざちゃん


げ、と明らかに嫌そうな顔をしてる


「大丈夫?」

『大丈夫です!

じゃあまた、明日頑張りましょう!』

「おう。おやすみ」


『おやすみなさい、


おにーちゃん』




なーんちゃって

と笑って廊下を歩いてくぎょーざちゃん





お兄ちゃん



って
こんなに破壊力あるフレーズだったんだな…












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