コート上の天使

□奮い立つ言葉
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落ちた強豪
飛べない烏



会場に着くなり耳にした不名誉な渾名


イラッとくる反面
今に見てろよ とふつふつと燃えてくる




インターハイ予選
大きな大会だ
出場校も多い



ちらり、と隣のぎょーざを見る


『?どうした?』




くそ、
今日も、きっ…きらきらが…



『緊張してる?』

「べっ、別にしてない…!」



ふぅん、とまた前を向いたぎょーざ




…俺やっぱり







「やべ、超カワイイ!」

「マネージャー?レベル高っ」

「あれ焼きさん?今烏野のマネなんだ!」

「やっぱ天使だわ、俺試合見たことある!」






こめかみがぴしり、と音を立てた




うっせぇ
見るんじゃねぇ
お前らなんかに渡してたまるかボケ




ギッ
と思い切りガンを飛ばしてやった

月島の空気の抜けたような笑いが聞こえる。




「うわ、あれ北川第一の…」

「コート上の王様だ」




王様とか言うな



『ちょっと、』



ジャージの裾をぐっと掴まれた



『顔コワい』

「もとからこんな顔だ!」

『気にしてんの?王様』

「っ王様言うな」



イライラ

くそ、試合前だぞ 俺
落ち着け、




『…なっちゃえばいいじゃん王様』



「は、」

『自己中の王様じゃなくて、本物の王様に。』




なにを言ってるんだコイツ


と思いつつも

すとん と心に何かが落ちた




『今は独りじゃないもんね』



独りじゃない


上げた先に誰もいない、
なんてこともない




じんわりした気持ちになって恥ずかしくなった。




「ぎょーざ」

『烏養さん!』

「じゃあ、頼むぞ」

『出来る限りのことはやります』




話についていけない
なんのことだ?



『じゃあ皆さんここから私は別行動になりますので!頑張ってください』

「え!焼きさんもう行っちゃうの?!」


「お前言ってなかったのか?」



呆れたように言う烏養さん



「こいつにはアナリストやってもらう」



アナリスト…って

理解した瞬間やたらと荷物を持てる状況に納得した。



『相手校になるかもしれないところのですけど』

「え、それじゃ」

『皆さんの試合は見れないんですけど気持ちは応援してます!』




それって…

ギャラリー見上げてもぎょーざはいなくて、
他の学校を見てるってこと…




じゃあ、

とあっさり行ってしまった背中を追いかけた。






「ぎょーざ、!」


びくり、と肩を揺らして振り返った。


『と、飛雄…そんな大声で呼ばなくても』



どしりと持っていた荷物を床に下ろした。
重たい、んだろうな



どうした?
って声かけられてはっとした

体が勝手に追いかけて、呼び止めてたけど


俺はいったい
何を言うつもり、だったんだろう…



よくわかんねぇ
わかんねぇけど…





『やだ、なに永遠の別れみたいな顔しちゃってんの?』

「お前なあ…」



からり、と笑うぎょーざ
余裕だ、相変わらず

なんでいつも俺ばっかり焦って…




『ほら、アップ始めないと』



ぐるっと体が反転
体育館の方へ背中を押された



「お、おい」

『初戦、大事にね』



顔は見えない
けど、声が真剣だ









『…信じてる、から』



一瞬、心臓を掴まれたような感覚


頑張れ

とか、

勝ってね


なんかより

たった一言
こんなに奮い立つ言葉があるなんて、


背中からぎょーざの手の平の熱が伝わる

まるで力を分けてもらってるような
そんな感じがした



こいつを全国に






自分で改めて誓って、俺は背中を押されたまま勢いで体育館へ走り出した。







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