コート上の天使

□隠れた表情
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「烏野のマネ超可愛くなかった?」
「俺も見た!二人共レベル高い」
「マネのレベルじゃ優勝だよな烏野」




他校生の会話からするとどうやら俺の天使は既に会場入りしてるらしい。



ま、1回戦からだし
当たり前か

うちはシードだけどっ





人でごった返してるロビー
対戦表の前に立つ後ろ姿




噂をすればってやつ



間違えるはずもない

小さい体を後ろから抱え込んだ。




「ぎょーざちゃんっ」

『ひっ』

「あは、何その声カワイイ!」

『お、及川さん…』



おはようございます、と律儀に挨拶してきた。



「おっはよー。今日もカワイイね!」

『あの、離してください』

「え、スルー?!」

『だから、』

「やだもーん。まだ離してあげない!」



眉を少し寄せたぎょーざちゃん
そんな顔してもかわいいだけだから

それにね



「うわ青葉城西」
「及川が彼氏かよ、」
「やっぱ付き合ってんだ、あの2人」



俺のだから手出すんじゃないよって
他のやつらにわからせないといけないからね



『っちょっと!今嗅ぎましたよね?!』

「んん、ぎょーざちゃんいい匂い〜」

『っふ、あ…ちょっと…!』

「うわ、今の声ぞくっとキタ」

『ほんっと恥ずかしい人ですね!』



耳まで赤くなっちゃってる
ふうって息吹きかけたら鳩尾にエルボー



「ヒドイっ!俺今日試合あるんだけど!」

『バカっ知らない』



つんっとそっぽ向く俺の天使
ちょっとやりすぎちゃったかなあ






「おっ、マネちゃん」

『嶋田さん!おはようございます』



メガネのセンターわけのお兄さん
え、誰




『横断幕張ってるんでそこなら空いてると思います』

「はいよ、了解」



しかも
なんか仲良さげだし



「あ、」



うわ目合った



「彼氏くんじゃん」


「…えっ」


『だから彼氏じゃないですって!』




彼氏って…俺?
俺だよね!?
だって指さしてるの俺だもん!
え、なに
俺彼氏?!
誰の?
そりゃもちろん…!



「はあーいぎょーざちゃんの彼氏です!」

『だから違うって!』

「お兄さん誰かしらないけど超いい人だね!」

『この前行ったスーパーの店長さん!烏野のOBの嶋田さんっ!』



あー
あの時の!




「彼氏くんバレー部だったんだ」

『あの、だから』

「背高いと思ったんだよねぇ」

『…見てればわかりますよ、この人ほんと性格悪いんで』


「チョット!俺のことそんな風に思ってたワケ?!」

『そりゃそうでしょ!中3にして座右の銘が叩くなら折れるまでとか極悪非道ですよ!』

「あはは。邪魔しちゃ悪いから上がってるね」




ひらひらと手を振ってお兄さんはギャラリーに上がっていった





『…てゆうか、及川さんシードですよね。なんでもう来てるんですか』

「えぇーぎょーざちゃんに会いにきたんだけど」

『岩泉さん一緒じゃないんですか?』

「スルー?!しかも岩ちゃん今どうでもいいでしょ!」

『一人で来るわけないですよね。もしかしてうちの初戦見に来たんですか?』




なんか、つれないなぁ
いい加減もうちょーっとでいいから
俺にデレてくれてもいいんじゃないの?

ま、そこも
難攻不落の城って感じでいいんだけどサ



『Aコートでやってますから。じゃ、私はこれで』

「ちょ、ちょっと!ぎょーざちゃんもギャラリー上がるんだよね?!」

『私は伊達工の試合見ます』

「はあっ?なんで伊達工?」



ぎょーざちゃんは床に置いていた荷物を担ぎあげて、
俺の顔を見て口角を上げた




あ、やばい

って思った頃には遅くて



いつの間にこんな綺麗になったの?





言葉を紡ごうとする唇が開いていくのを見つめてるしかなかった。





『私スパイなんです』

「……なにそれ、すごいそそる響き」





だってこんなスパイいたら
間違いなく絆される。


ぎょーざちゃんによると
次に烏野と当たる高校を見て調べるらしい。




「でもそれってさあ

自分達の試合見ないってことでしょ」

『そうですね、はい』

「見たいなぁとかないの?」

『そりゃ見たくないわけじゃないですけど、』




その顔に後悔とかは全く見えなくて
中学の時が嘘みたいにすっきりしてる



そこまで思われる烏野が、飛雄がちょっと羨ましい





『…うちは選手全員ベンチ入りできるだけの人数です。青城みたいにギャラリーからの大声援があるわけじゃない』

「…どういう意味?」

『私1人が遠いとこで聞こえもしない応援してても無駄かなあって』




既視感
どっかで見たことある表情だ


…あぁ、そうだ





私のサーブでそんなリスクかけちゃダメです





そう言って


ジャンプサーブを捨てた時だ


何かを諦めた先の、
事態を悟ったような表情


あの時の顔と似てるんだ


それを理解してホッとした
そしてわかった


そうだ、俺は面白くないんだ
希望に溢れた表情されるのが




俺の付け入るスキがなくなるみたいで





今みたいに
どこか、不安定さをチラつかせてくれてれば





「ま、色々考えてるんだろうけどさ」





ズルイ言葉で誘って




「及川さんはぎょーざちゃんの味方だよ」






繋ぎ止めておけるんだけど、ね







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