コート上の天使

□賭け
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いよいよ
いよいよだ



心配な気持ちがちょっぴり、と
楽しみな気持ちがいっぱい

だって
公式戦見るの初めて


エンドラインに並ぶ皆を見て自然と口元が上がっていく

恥ずかしいから手で隠す

三年生は少し厳しい顔、に見える
けど大丈夫、



できることはやったし、
勝ち目は大いにある




『大丈夫、大丈夫…』


途端
地響きのような声援

伊達工のだ



あ、どうしよう
私が緊張してきちゃった



おねがいしあーっすっっ!!



両者がセンターラインに駆け寄って手を交わす


手すりを握ってコートを見下ろす。



コートに散らばる黒

よし、みんな集中してる


頑張れ、頑張れ
と目で念を送る。



…でも

頑張れ

ってなんか他人事だなあって
ふと、思ってしまった
今までそんなこと感じたことなかったのに。

なんだか、こっちの期待を無理やり押し付けてるみたいだ


すると
とんとん、と肩を叩かれて
振り返れば にっこりと笑顔の




「ぎょーざちゃんさっきぶり!」

『及川さん!?だってもう、』


青城は隣のコートで試合なはず

もうコートに入ってアップを始めるはずなのに、




「そうそう、もう行かなきゃだから会いにきちゃった〜」


へらっとしたテンション
とても試合前とは思えない



『…怒られますよ、岩泉さんに』

「もうぎょーざちゃん岩ちゃん気にしすぎっ」




こんなところに青城の主将がいるせいで
なんだかざわついてる気がする。



「ねぇ、俺達の試合見てくれるんでしょ?」


ずいっと近づいてきた及川さんの胸を両手で押した。


『見ます、見ますけどっ

近い、!』




胸を押していた手をそのまま握られて
あ、この人にかなうわけなかった
と今更気づいた


えへへ、と及川さんが笑う

だらしない笑い方だけど
やっぱり顔はカッコイイことは認めざるを得ない

及川さん越しに女の子が見える。




「嬉しいなー」

『はあ、そうですか』

「だって、飛雄チャンじゃなくて俺を見てくれるんでしょ?」


『及川さんじゃなくて青城をです』

「わかってるよ!相変わらず冷たいっ」



笑ってたかと思うと、へこんでる及川さん
岩泉さん、疲れるだろうなあ




『…ちゃんと見るんで、出し惜しみしないで下さいね』



一瞬きょとん、として私を見ていたけど


「…ふぅん。言ってくれるね、ぎょーざちゃん」


また、表情が変わった。
ほんと、底知れない人
ころころと変化していく


及川さんの視線がコートに落ちた



「今日の飛雄ちゃんは随分周りが見えてるねぇ」



言葉につられてコートを見れば飛雄と目が合った。

なんか固い顔、してる
唇噛んで、こっちを見てる
何か言おうとしてるみたいで、目を逸らせない。



「ねえぎょーざちゃん」


ぴく、と嫌でも反応してしまう。
だってへらへらしたいつもの感じじゃない。

有無を言わさない声色の圧力




『は、い』

「楽しみにしてるよ」




主語はないけどわかる
烏野と、飛雄と試合するのを、だ





「だからさ、もし俺らが勝ったら

デートしてよ」




にこぉと目の前の顔が笑った

急に肩の力が抜けて、どっと疲れた


本当にこの人の雰囲気の切り替えどうなってんの




『…じゃあ、うちが勝ったら?』

「うーん、それは考えてなかったなぁ」

『なにそれ!』




調子いいこと言う及川さん

随分と自信があるようで

当然、って言ったら当然
だってうちは青城の格下


周りもきっとそう思ってる




けど、


『最善は尽くしますよ』

「あれ、勝ちますって言うかと思ったのに」

『だって』




私は所詮手助け
むしろ手助け、になればいいくらい



『戦うのは私じゃなくて、彼らだから』




なんでかな

本当のこと、
事実を言ったまでなのに

ちょっと寂しい気がするのは



ただ、及川さんは
よくわかんないけど満足そうに笑った




「俺そういうぎょーざちゃん、ほんと好きだよ」

『意味がよく、』

「えぇ〜言わせるの?」

『〜っもう!おいか』


わさん


及川さん、と言うはずだった唇に
人差し指がそっと触れた


それが及川さんのだって気づいた時
私の頭をそっと撫でて




「じゃ、及川さんのことしっかり応援してね?」




ひらひらと手を振ってギャラリーを降りて行った。




『…本当わっかんないな、あの人、』





最後に見た顔は

いつも私を慰める時みたいに
わけわかんないくらい優しかった。















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