コート上の天使

□鉄壁を破る
1ページ/1ページ




目の前の試合に勝つ


全国までの試合の1つ




そう考えるべきなんだろうけど
どうしても特別な意味を持った試合に思ってしまう。

伊達工をなんとしても打ち破っていかなきゃならない



1年コンビに頭下げて試合を委ねるなんて
上級生としてプライドもへったくれもない


ぎょーざちゃんから預かったデータを見て、タイムアウトの度に声をかける

後輩に頼りっぱなしだ


それでも

勝ちたかった
勝たせてやりたかった





だから
西谷の神がかり的な反射には思わず前に乗り出しそうになった。



もう1回 決まるまで


声を枯らした




影山が俺の声を聞いたのがわかった

ネットから離した 高めのトス



すうっとよく伸びて
旭がジャンプする

速いスイング 鋭い音をたててブロックにあたる

ボールは白帯の上を歩いて


トンっと
相手コートに落ちた





勝った
伊達工に


じわじわと湧き上がる熱い気持ち

これまでのことが自然と思い出されて
拳をぎゅっと握った



「よし…っ!」




「俺はエースだけど、お前らはヒーローだな」


旭がそんなことを言った



嬉しかった
旭が自分で 俺はエースって


勝った
リベンジした


けど…
やっぱり


「自分のトスで勝てたらよかったって思うよ」


勝ったのに、悔しいなんて初めだった
けど言ってはっとした


やばい
思わず大地に本音を言っちゃった

これはチームにとって大きな勝ちだ



なのに水を刺すようなこと…




「わ、悪いっ今の」

「お前がまだ戦うつもりでいてよかった」


気を悪くするどころか よかったって、

素直に
あぁ、仲間だなって思えた




「さっさと撤収だ!上あがってぎょーざと合流するならしろ」


烏養さんの指示に
見上げれば隣のコートを見つめるぎょーざちゃん


本当に、見てないんだな こっちは





「きゃあーっ及川さーんっ」



男の野太い声すらかき消す黄色い声


「青葉城西の初戦か」


サーブに下がった及川の顔には
余裕とか、絶対的な自信 みたいなのが見えた。


じぃっと見つめて動かなそうな影山


「ほらほら!ぎょーざちゃんとこ上がってから見んべ」

「!うっす」





ギャラリーに上がればコートから視線を外したぎょーざちゃんと目が合う



『お疲れ様です!』

「おう、お疲れ!」


どうやら結果は知ってるみたいだ

笑顔のぎょーざちゃんに家に帰ってきた、みたいな安心感を覚える



『あさひさんっ』

「えっ」


両手の平を旭の前に出したぎょーざちゃん

旭は ぽかん、としてたが
おずおずと手が合わさってパチンっと音がした。



『ナイスファイトですっ』


眩しいくらいのいい笑顔

なんか、こう きらきらしてる
そんな笑顔を向けられた旭は



「焼き…!」

「えぇー。泣くなよ旭」

「だ、だって…」

「座れヒゲ。でかくて前が見えん」

「ひ、酷いな大地…」




涙ぐんでた





「ほんと、あの、本当にありがとう」


『とんでもないです!私はなんにもしてませんよ。さすが我らがエース、あさひさんですね』




褒め殺しだ
旭も褒めすぎだよ、なんて慌ててる



よかった
なんてつかの間



ピイッと短くホイッスルがなる



「ぎゃーっまたっ…!」

「これで4本連続サービスエース…」



コートでは
及川のサービスエースが炸裂していた


明日はこことやる


一気にこっち側に戻ってきた感じがした。


ぼすん、と 隣を見れば影山が座ってきた



「あれ?影山」



意外だった
ぎょーざちゃんの近くであーだこーだ言いながら試合みるものだと思ってたから



「いいのか?こっち来て」

「俺、なんか変なんで。ここでイイっす」

「変?」



黙っちゃったよ
よくわかんないなあ


ぎょーざちゃんはというと
手すりに頬杖つきながら試合を眺めていた

こっちも意外だ


忙しなくパソコンに打ち込みして
熱心に試合を見ている印象があったから。


今はなんだか、つまんなそう?




「どんな感じだ?ぎょーざ」


烏養さんが声をかければ
ううん、と唸った


『及川さんのサーブって、ざっくり分けると3つのタイプに分けられると思うんです』

「3つ?」

『パワー重視のサーブ、ラインの際とか人の間を狙うコース重視のサーブ、あとは1人を徹底的に叩くサーブ』


その分類わけで言うと練習試合で見た及川のサーブは 1人を徹底的に叩くサーブだ
あの時は月島を狙ってた


『今は3つ目の叩くなら折れるまでサーブ。相手の選手も折られちゃってるんでつまらないというか…』

「つまらない、ねえ」



それだけ単純にゲームが進んでるということ

それだけ単純に点が取れるほどのサーブ


確かに俺達は一回青城には勝ってるけど
及川に最後の最後で追い詰められた


セッターとしての及川は未知だ



流れるようなコンビに
エースと及川は小学生から同じチームで阿吽の呼吸だ、と影山が教えてくれた


ますます及川率いる青城が強く見えた。



「大王様かっけぇ!早く試合したい!」

「サーブ狙ってくんねぇかな!」



雰囲気粉砕
眩しいくらいのポジティブ

俺らが黙りこくった中で日向と西谷はわくわくムード


こいつらには叶わないなあ



テレビカメラが居ると騒ぎ出し、
終いにはうるさい、静かにしろ小学生と怒られ

どうしようもない奴らだけど
今の烏野の大事な戦力



ぴーっとホイッスル
試合が終わった。当たり前のように青城の勝利

椅子から腰をあげて撤収しようとしたら下から声。



「ぎょーざちゃぁーん!見てた?!」

『ちょっ…声でかいですよっ』


ぴゅうっと熱気から冷たい空気に変わった。
俺の隣が


そろっと様子を伺えば

それはそれはもう、心底面白くない、という顔をしていた。



「及川さんサーブ調子良すぎじゃなかった?!」

『あ、よく見てませんでした』

「嘘ぉっ?!」

「クソ川いい加減にしろ!」

「痛い!」



やり取りが終わったのかくるり、とこちらを見て


『すいません、行きましょうか』

「お、おう…行こうか」



あんまりにもおおっぴらなやり取りだったから、俺らだけでなく周りもざわついていた。



あれが噂の天使だ
やっぱり及川と付き合ってんのか
及川が彼氏かよ
うんぬん



ここまで第3者の立場から及川とぎょーざちゃんの関係を認められてしまっていると影山が可哀想というか、気の毒というか

案の定、ポケットに手を突っ込んだまま難しい顔をしている。



ああ、及川頼むから
あんまり悩ませないであげてほしい


まさか
これがある種の作戦だって言うなら
相当 いや、救いようのないレベルで性格悪いぞ…












[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ