コート上の天使

□家庭
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『ただいま』

「お帰りー」



いつもは返ってこない返事に顔を上げた

寛いでるお母さん



『仕事は?早くない?』

「今日はノー残業なの」

『そっか、』

「ね、テレビでてたよ!」



急いで録画まわしちゃったー
なんてはしゃぐお母さん
バレー部の皆とかぶった



「及川先輩と映ってたよ、あんた」

『あぁ、うん。知ってる』


あの後すごい騒がれた
西谷先輩とか田中先輩とか、とか

すごい一瞬だったし、
全然記憶にないところ撮られててなんとも言えなかったけど



「やっぱ及川先輩かっこいいね!」

『…あ、そ。言っておくよ』

「もー、なんであんなイケメン近くにいるのにそんなにドライなのよ」




イケメン

確かに及川さんはイケメンなんだけど

それだけじゃないから

だから、変 だと思う




「あんた顔はいいから外見はまあまあ釣り合ってるよ」

『顔はいいって…』

「いいなあ
憧れのアイドルって感じで」




その言葉にピンときた




『そうだよ

及川さんはなんていうか、皆のモノって感じで…。皆に優しくしちゃうんだよ』


私だけじゃない



及川さんはぎょーざちゃんの味方だよ


って

きっとあの言葉も
いろんな人に言ってるんだ



「ふぅん。」



さっきまであんなに興奮してたのに
もう興味なくなったのかってくらい
薄い返事が返ってきた。



「ところでさ、あんたバレー楽しい?」

『えっ』




唐突だった
返事に困ってると楽しいかどうか聞いてんの、と急かされた



『た、楽しい!』



勢いで口から出たのは肯定


『楽しい、よ…なんだかんだ。また高校でやれてよかったって思う』



思い浮かべるのは
汗いっぱいになって頑張るみんな

いいなぁって思える



「そっか、」



微笑まれてむず痒い気分になる
けど違和感があって
はっとした



『ね、ねぇ…まさか家計大変?部活じゃなくてバイトしたほうがいい?』

「はあ?何言ってんの?」

『だって急にこんな話するから、』

「あんた私をだれと思ってんの」



ふと、テンプレのごとく聞いていたセリフを思い出した
昔よくお母さんが言っていた



『若くて美人で超仕事できるママ、』

「わかってるじゃない」



ふん、とちょっと得意気


『だから…大丈夫』

「そーよ」



若くて美人で超仕事できるママ
だから大丈夫


今思えば
だから大丈夫は
お母さん自身が自分に言い聞かせてた部分なのかなって

ま、余計なことだから絶対言わないけど



『…試合のデータまとめてくる』

「がんばれ。お母さん及川先輩もう1回見るわ」

『及川さん明日敵なんだけど』

「お母さん関係ないもん」



そうだけど、

そうなんだけどさあ



録画を再生し始めたお母さんを横目に
私はデータをまとめるべく部屋にこもった


明日はどうなるだろう
きっと及川さんだって事前に映像を見てくるはず



でも、
勝たなきゃ先がないんだ






.

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