コート上の天使

□寝込みは襲わない
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『あれ、飛雄だ』

バスで隣の座席に座れば声をかけられた

清水先輩とは交渉済みだ。席は譲ってもらった。




「なんで昨日先に帰った」

『だって自分の世界に入り込んでるみたいだったし、』

「ぐ、」




言い返せない
ほんとのことだからだ


昨日は及川さんとの対戦に頭がいっぱいだった


あの及川さんを倒さないと次がない、と



あれこれ考えて
勝って、全国へ行く
ぎょーざを連れて行く、と

そこで我に返ったがもう遅かった


ぎょーざちゃんなら清水と帰ったよ
なんて菅原さんに言われてしまった。


帰ってからも試合を考えてはぎょーざがチラついて

こんなことなかったのに、
昨日の試合前も及川さんとぎょーざが見えてすげぇ、なんか…こう
とりあえず俺は変だった

それに見てしまった
青城戦を見ながら 、及川さんのセットアップを見ながら すごい って呟いているのを


俺も試合見てろよって自分でも思う

なんでよりによってそんな時にぎょーざを目で追ってしまったんだろう



だから今日の試合前には
せめてバスでは
一緒にいたかった、なんて なんて





バスが動き出して一定のリズムで揺れる


『昨日さあ、伊達工戦見たんだけど』

「おお」

『なんでサーブリベロに打ったの』

「ぐ、」



くそ、また言い返せない

ぎょーざはなんか楽しそうだ


あれは完全にミスだ
リベロが上手いことはわかっていたのに



『今日やったら一発で叩かれるよ』

「…わかってる」



隙なんて見せたら終わりだ
今日の相手は



『でも言っておくけど、戦うのは及川さんじゃないからね』



じっと見られまた言葉がぐっと詰まる


なんなんだ本当に
なんでわかるんだ



「わかってる、!」

『うん、だよね』



よかったよかった
そう言って静かになった


がたがたバスが揺れる



そうだ
及川さんを意識しすぎるな
相手は及川さんじゃない。青城だ


チームで勝つことを考えろ
勝たなきゃ次に進めない


ふーっと息を吐いたところだった



とん、と肩にかかった重みに
吐いた息が止まる

ぎぎぎ、となぜか言う事を聞かない首を回して左肩を見れば頭が乗っている



顔を覗けば



「ね、寝て…る?」



ぎょーざが俺の肩で寝てる
俺の肩にもたれて…


認識すれば左半身がありえないくらい熱くなった。




絶対揺らしちゃいけないと思った
何が何でも起こしちゃダメだと

映像見たり、データ取ったりまとめて俺らに教えてくれて
すげえ情報量だって烏養さんも言ってた

きっと夜までずっとやってるんだ

ちょっとの間かもしれないけど、寝かせてやりたい



なのにやたらバスが揺れる気がする
バスってこんな揺れたか?
頼むから武田先生もっと静かに運転してくれ

バスが揺れては左側を確認し、一息つく

起きる気配はない




信号待ちでバスが停車した


揺れが止まって、ぎょーざが息をしてるのを左半身で感じる
当たり前、だけど


そおっと、視線をずらせばやっぱり寝てる



「…、」

『…ううん、』

「!」



少し身じろいでまた寝だす

…起きたかと思った、



考えてみればぎょーざが寝てるところなんて珍しい

中学の時三年間同じクラスでも授業中寝てる時なんて見たことなかった。


珍しいことなんだ、
なのに、俺の肩で寝てる





…口ちょっと開いてる
でもそこがなんか、イイ


ぎょーざはなんつーか…
顔が甘い、ってゆうか、、
吐息すら甘い気がする


いつも見てる顔が幼く見えて
喉の奥がごきゅっと変な風に鳴った



どうした、俺
やばい。すげえ今



ぎょーざに 触りたい




これはまずい
ダメだ

ダメなんだけど、



左手にぎょーざの指が絡んできて
本格的になにかが外れた


左手はぎょーざの手を握って
右手は顔にかかる前髪に触れてた



衝動的に近づいて、吐息を感じた瞬間



「悪い影山、そっちテーピング転がってない…か、?」


耳に入った声
目の前にある唇


振り返ればこっちを見てる菅原さん


「て、て、テーピング、っすか…」


足元を見れば白いテーピングが落ちていた


「あ、それそれ!」


拾い上げて渡せばにやりと笑われた





「寝込みは襲っちゃまずいべ」

「襲ってなんか…!」



否定しようとして飲み込んだ



『んんー…着いた?』


不意に起きたぎょーざにびくついて変な声が出た。


『まだかあ…もうちょっと寝てよ』


ぽすん、と再び肩に重みがかかる。


「お、おい」

『飛雄の肩すごい寝心地良かった』


へへ、と俺を見上げて笑う


くそ 俺を試してんのか
そんなことされて俺はどうすりゃいいって言うんだよ



また聞こえる寝息に意識が持ってかれそうになったけど
深呼吸を繰り返して
とりあえず
とりあえず試合のことを考えて、バスに揺られた。









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