コート上の天使

□愛しさに溶ける
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『及川さん彼女いますよね』

「えっ?」


唐突な言葉に思わず声を上げた
頭蓋骨の後ろの方から出たような情けない声

いや、唐突だったからってだけではない
図星 だからかも


『彼女いるのに、こういうのダメです』

「え、あ」

『気をつけないといつか刺されますよ』

「刺される?!」

『だから、その…そういうことですから!』



まともなことを言えないまま彼女は踵を返した



なんでこうなった
なにがあったんだっけ



何時ものように声をかけ、
疲れが見える彼女の顔に思わず触れて、
その目をのぞき込んだ


聞けば遅くまで昨日のウチの試合を見ていたらしい

ぎょーざちゃんの時間が、なんか俺のモノになった気がして顔が緩んだ


どうであれ、ぎょーざちゃんが俺のことを考えてる
それだけで何にでも勝てる気がした





思い返せばこんな流れ

彼女いますよねって


つまり、さ





「またお前はどっか行きやがって。おい、早く戻るぞ」

「ねぇ、岩ちゃん」

「あ?」




出した結論に
湧き上がるのは


興奮




「ぎょーざちゃんに彼女いますよねって、言われた」

「は?」

「こんなことしてたらいつか刺されますよって」

「同感だな」




どうしたものかな 俺、

完全にイカれてるわ



「どうしよう岩ちゃん」

「あ?んなもんお前が」

「興奮で鼻血出そう」

「はあ?!」




岩ちゃんは心底わけわかんねえって顔してる


けどね、
俺落ち込んでなんか微塵もないから




「初めて言われた、彼女のこと。今までも彼女の話してたのに、」




そもそも
ぎょーざちゃんの気を引きたくてそんな話をしてたんだけど
全然引っかかってくれなくて


今になって漸くと言うべきかわからないけど


彼女いるからダメですって


それってさ
ちょっとは意識してくれるようになった
ってこと?





「…ニヤニヤすんじゃねぇ!」

「何言われてもいいもんね!」



ここにきて変化が出てきたんだ
ニヤニヤくらいするし!



「つーか、お前まだ彼女と付き合ってたのかよ」

「うぐ」

「さっさとどうにかしろよ」

「!うん」



バカだなあって自分でも思う

ぎょーざちゃんを想いながら彼女と付き合うとか


確かに女の子は身近に沢山いる

けど本当に大事にしたい子には本気に行くのが怖い
ふざけてるようで大真面目なんだ


自信はあるけど、ぎょーざちゃんだもん

拒否されたら、こわい



俺を選んでくれなかったら嫌だなんて
思ったのは初めてだ




「ふふ、好きだなあ」

「チッ」

「あ、今舌打ちしたね!」

「だらしねぇ顔してっからだろ」

「岩ちゃんも恋したほうがいいよ〜」




何時しか感じた時とはちょっと違うけど
今も俄然無敵な気分なのだ




さて、

天才を叩き潰して
天使とデートだ






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