コート上の天使

□無力
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歓声に溢れる会場




「青城と烏野の試合がやべえんだって」




すれ違う人の会話


今までなんて比じゃないくらい
試合が気になる…!


やべえってことはいい試合ってこと?
何対何?
データは機能してる?

さっきチラ見しちゃった時は飛雄がサーブだったけど
なんかいつもと変だったし
サーブトスも乱れて空中姿勢も崩れてた

その次は田中先輩がサーブ狙われてたし、及川さん相変わらずだし



…私に全然コッチに集中できてない




気になる

正直青城に勝てれば次の試合も取れる
油断じゃなくて
サーブ効果率とか決定率とか合わせてウチの方が勝る



自然と手が止まる
気づいた時にはこっちの試合は2点動いていた



『ダメじゃん、私』



烏養さんに怒られよう

諦めて
反対のコート
目を向ければ



コンビミス



やけにスローに見えて

一瞬にして蘇るあの光景
中学3年

あの瞬間
あの背中



飛雄焦ってるんだ
あんだけ言ったのに
敵は及川さんじゃないって


でも
相当プレッシャーがかかってるのもわかるよ
勝ちたいって気持ちも


だから、
行かなきゃいけないと思った


自然と足はあっちのコートに向かって走り出していた





人が多い
思うように進まない

人混みをかき分けて
早く、早く、早く!行かなきゃ


行って…!





行って何ができる?





ぴたりと思考と足が止まった


コートで戦ってるみんなに、飛雄に
私に出来ることなんてあるの?



「烏野セッター交代か」

『え、』



聞こえた声にコートへ目を戻す
スガさんとこっちに背を向ける9番



足が別の生き物みたいに勝手に動き出す

頭ではストップをかけてるのに
前へ、前へ



もうすぐ
すぐそこまで来た
顔は見えない
どんな顔してるの…?



手すりを掴んで
息を吸い込む



『とび、』

「お前を倒すのは絶対おれって言った!!!」



日向くんの声
よく通る声だった

まるで
雲間から刺す太陽の光みたいに
スッと伸びやかに




「それまで誰にも負けんじゃねえよ!」

「…試合終わってねぇんだから、まだ負けてねえし」




その顔は
あの頃とは違った
1人じゃない


わかっていなかったのは私だった
あの頃とは違う
崩れそうになれば支えてくれる人達がいる
コートの中、ベンチに
すぐ側に


もう大丈夫だって
理解者はたくさんいるって
飛雄に言ってた自分が1番わかっていなかったんだ




石みたいに固まった足元を無理矢理動かして、

一歩 また一歩下がった






戻ろう



次の試合のために
私は私の仕事をしよう










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