コート上の天使

□抱きしめて、そして
1ページ/1ページ





自分のことで精一杯なはずだった

コートに入る緊張感
久々なのが情けないけど


青城と対峙する
いざ立つとなると頭が白くなりそうだ




けど、
見えた

見えてしまった



ギャラリーに混ざった真っ黒な見慣れたジャージ
人混みをかき分けてこちらに向かって来る

手すりを握って口を開きかけた


目はきっと影山を追っていて
きっと言いかけた言葉も影山に伝えたかったんだ




でも
何かを飲み込んだような
そんな顔をして踵を返したぎょーざちゃん


嗚呼、なんて…






試合前にかけられた言葉を思い出した



スガさん、よろしくお願いします

って


なんで俺?って
控えだし、俺より頼れるヤツもっといる
大地だって旭だって
コートでまとめてくれているのに


それを言えばむっとされたんだ


私は誰でもなくスガさんに頼んでるんです



彼女にしては珍しく問いの答えが強引だった。



いつも言ってた
なんで俺なんてって言うんですかって

こんなに皆から信頼されているのにって



信頼、とかって目に見えなくて
実力、とかに比べたら何ら宛にならない
そう思ってたけど


こうしてコートに立って感じるよ


目に見えないからこそ
難しくて
簡単にできるものじゃないって


言葉にしなくてもわかる
お互いがお互いを考えているんだって



ぎょーざちゃんはそういうことを伝えたかったんだ



俺が気づかないことも先回りのように助言してくれる

本当に大人だ


大人なんだけど



嗚呼、なんて……

なんて可哀想な子なんだろう



可哀想が果たして正しい表現なのかもわからないけど

どうしてそこまで人の為に動けるのに
自分の思いのままに動けない


我慢ばかりで
息苦しいだろうに




「一本切ってくべ!」




この試合が終わったら
この試合に勝ったら




もっとしたいように
やりたいように素直に
我慢しないでいいんだよって

見てるこっちが辛くなるほど周りの状況を優先しちゃうぎょーざちゃんを

抱きしめてやりたいよ






先輩らしくね






.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ