コート上の天使

□王様が迎える
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ふわふわとしていた


気がついたらバスに乗っていて
頭から水道水を被ったというのに髪もほとんど乾いてしまっていた


さっきまでのことが遠い昔のようで、でも鮮明で
なのに現実じゃないような





いや、これはただの逃げだ
負けたんだ


明日の試合は俺には ない




及川さんに
青城に適わなかった


最後完璧に3枚ブロック付かれてた


いや、その前から
国見のフェイントだって
本当はわかっていた


それなのに俺はあの一瞬に入り込み過ぎて




冷静じゃなかった




冷静


そのフレーズにぶわり、と後悔




手を抜けって言ってるんじゃない、冷静になれ




中3の試合
ぎょーざに言われたこと



今日の俺も同じだ



俺は変われてなんか、なかった
なにもわかっていなかった



「全員いるかー?」



烏養さんの声
顔を上げる






…居ない

ぎょーざが居ない



座席を立ってバスの後方から走る
日向の足を蹴飛ばしたような気がするが、そんなことどうでもいい


「影山?!」



呼び止められた気がするが、そんなことも、どうでもいい


どうでもいい




バスから飛び出して会場に戻る



今行かなきゃいけないと思った
今ぎょーざに会いたいと、そう思った




くそ

なんで俺はバカなんだ


今更
ぎょーざの言っている意味がやっとわかるなんて





どこだ

どこに居る?



誰よりも先に見つけたい

及川さんよりも




ぎょーざは
及川さんにも譲りたくない








「!ぎょーざっ!」

『と、飛雄?』



黒い同じジャージ


腕を掴んで
やっと見つけた実感




「…探した」

『ご、ごめん』




もうこんな時間なんだね

って

いつもと変わらない様子
俺は逆にどんな感じで話していいかわからなくなった




「烏養さんが…メシ行くって、」

『…そっか、!

じゃあ私帰るね』


思ってもみない言葉に は?
と乾いた声が出た



『きっとお疲れ様ってことなんだよ。


私何もしてないのにどんな顔して居たらいいかわからないじゃない』




簡単に自分は何もしてないって言う





わかってない


お前は俺にわかってないって言うけど
…確かに俺はわかってなかったけど、




お前もわかってない



どれだけ皆頼りにしてるか
何でもないようにやってることがどんなに大変なのか




頭いいくせに、
俺のことなんでも見抜くくせに
なんでわかんないんだよ




『……飛雄?』




言いたいこと、いっぱいある
言ってやりたい のほうが近いけど


でも今はそうじゃない
そうじゃなくて、


掴んだ手首を引いて
抱き込んだ


ぎょーざが息を吸ったのがわかる



柔らかくて、小さくて
華奢で
本当は俺が守ってやりたいのに
余裕なくて
ひどいこともいっぱい言った



『な、なに?』

「……悪かった、」




『なんで、謝るの』



優しく優しく、って
頭ん中で誰かが話しかけてきてる気がして

わかってる
俺だって今度こそ、優しくしたいんだよ




「全国連れて行けない、」




自分で言ったくせに
じわじわ込み上げてくる
手に力が籠りそうになる

約束、したのにな





『…何言ってるの、次は行くでしょ?』




次は

って




ああ、もう
なんだよ
なんなんだよ


結局こうなるのかよ
やっぱりぎょーざには敵わない


「…おう」

『だから謝んないで』




お疲れ様
って


こっちが泣きそうになる



うまくいかねえな
ぎょーざを守るって
受け止めるって




「…ありがと、な」

『えっ』

「ぎょーざが居てくれてよかった」

『だ、だから何にもしてないって…!』



色々考えても結局俺はダメだ

思ったことを
思ったまま言う




「ぎょーざが居てくれなかったら2セット目の最後、きっと止められなかった」



試合見てないから知らないだろうけど、


決定率をも凌ぐ信頼に頼ったセットアップなんて考えたこともなかった




「ぎょーざが居てくれたから、」

『も、もうわかったから…』

「だから、これからも…その、」




これからも、なんだ
なんて言えばいい


なんて言ったら
伝わるんだ





きょとん、と俺の言葉を待つぎょーざ



ああもう

すげえかっこ悪い俺

かっこ悪いけど





「その…そばに、居てほしい」




耳が熱い
首も熱い

もうどうにでもなれ






『…ありがと』




声に、顔を見れば
ふわって笑ってた




あぁ、やっぱ好きだ








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