コート上の天使

□賭けの結果
1ページ/1ページ

今でも鮮明に思い出せる

期末試験あるの、わかるよね?


と言った先生の顔と
飛雄の魂の抜けきった顔と
日向くんの悲鳴
大地さんの座った目


…なんとかしなければ


私だって勉強が好きなわけではない
できるならやらないで過ごしたい
でも、なんとなく
やっておかないと将来困る
なんて薄っぺらいことだけど
やらなきゃならないこともあるってわかる

誰しも望んだ将来だったり、仕事に就けるものじゃないってこともわかる
一般的にはみんなどこかで妥協してる

でもこれは一般人の話であって
才能がある人だっている
そういう人は存分に才能を発揮してほしいって思うのは珍しくないはず

だから、じゃないけど
勉強がくだらない、とかそういうのじゃないけど

飛雄や日向くんには
思い切りバレーしてほしいよ

赤点で補習
そんなことで
貴重な東京での経験を無駄にしてほしくない



道に転がる石ころを足で蹴飛ばしながら家に
帰る
蹴飛ばしながら考える

…大丈夫、うん


受験だってなんとかしたんだから
今回だってなんとかなる
いや、なんとかしてみせる

よし、と意気込んで石ころから
目を離し顔を上げると

あ、と思わず声が漏れた



「あれ、うっそ、え?」

『いや、どんだけテンパってるんですか

…及川さん』

「いや、だってまさかぎょーざちゃんに会えるなんて思わなかったから!」

うわあ超ラッキー?なにこれ!
今日俺星座占い1位なんじゃない?
あ、てか前髪切った?


だだだっと畳み掛けるように言葉を紡ぐ及川さん。
なんだ、テンパってたの最初だけ


「前髪いーね!すごいカワイイ!なにしてもカワイイけど!」


前髪
特に変わったことなんてない

本当に普通に伸びた分切っただけ
誰も気づかないくらいほんの少し

別に特別なことなんてないよ
気づかれたいとも思ってないよ

けど
なんでかちょっとだけ顔がゆるんでる、私

たぶん
そんな気がする
すごい、なんか嫌だ
及川さんなんて誰にも言っていそうなのに


いや
普通でしょ
褒められたら嬉しいでしょ
…うん
おかしくない
おかしく、ない


「うん?もしかして照れてる?」

『そりゃ…照れてますけど、』

「素直!かわいすぎか!」


なにこの子!と1人で騒ぐ及川さん

ああ、なんだ
やっぱり及川さんだ


一番最後に見たのが決勝の後のあの表情だったから
この調子だともう次を見てるんだなぁって


『…負けませんから』

「え?」

『次は、負けません』


言い切れば
ぽかん、とした後
何のことかわかったのか
ふっと試合中みたいな及川さんになった


「ほんっと…最高だよぎょーざちゃん」

このくだりでなんでその台詞なのかいまいちぴんと来ない。
でもそんなの今に始まった話ではない

「妬けちゃうなあ、ぎょーざちゃんをこんなに熱くさせるなんてサ」


やれやれと首を振る及川さん
こういうことはよくある。
及川さんは納得しても私はなんのことかサッパリ置いてけぼり。


「とりあえずさ、」


ぽん、と頭を撫でられ
引き寄せられて、慌てる


「賭けは俺の勝ち、だよね」

『賭け?』





「デートしよっか」







ああ、そんな話もあったなあ







[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ