コート上の天使

□亀裂
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あっと言う間に事が進んで
さっきまで球出ししていたはずなのに
体育館に響くのはボールの音でもシューズの音でもなく荒々しい口調と息遣い


私だけが取り残されて
目の前の2人を見ているしかなかった



それに対して

ケンカはダメだとか
仲良くしよう? とか

説得力のない言葉のチョイスな上
説得力のない震えた声


どうしよう
どうしよう、
どうしたら

頭の中はパニックで
2人は冷静じゃないのに私までパニックで


「かげやまああああああ」


日向が影山くんにタックル仕掛けたのを切っ掛けに揉みくちゃになった


ふと
頭をよぎるのはぎょーざちゃん

この場に居たのが私じゃなくて、


そこまで考えてハッとした


「誰か…先輩…っ!」


体育館を出て最初に目に入った後ろ姿に飛びついて縋った。


「たたたなかしゃんん」
「え?え、谷っちゃん?」
「しぬ…!」
「え?!」


もう死にそうだった
二人を止めなきゃいけないのに
どうしたらいいのかわからないし
二人に喧嘩はしてほしくないのに

田中さん引きずっていけば
外まで声が漏れてきて田中さんも
なんとなく状況がわかったみたい

率先して中に入ってくれて

「お前らやめろ!!」

バシィィンと一発拳が入った


水を打ったように静かになって
漸く帰る支度をする流れになった


二人とも傷だらけになって
沈黙が流れて
痛々しい


「あの、絆創膏」

影山くんに差し出せば
しばらく私の手にある絆創膏を見つめて
パッと受け取って、いつものようにぺこりとして帰ってしまった


追いかけることも、背中に声をかけることもできなくて
遠くなっていく後ろ姿を見てぎょーざちゃんなら追いかけて隣に立つんだろうなって


「あ、日向も…」

日向はありがとうって受け取ってくれた
帰ろうかって言われて
うん、とうなづく


帰り道もなんて言ったらいいのかわからなくて
日向が押して歩く自転車のカラカラとした音がやけに耳に入る

「谷地さんごめんね!」


明るく言う日向
でもその表情は何時もの太陽みたいなキラキラじゃなくて、

「私はいいよ、」


私はいいんだ
でも、日向が
影山くんが


大丈夫?って言いかけて辞める
また説得力のない言葉なような気がして


友達じゃなくて
相棒ができた気がした

そんなようなことを日向が言って余計に切なくなってしまう



自転車を漕ぐ後ろ姿を見ながら
これからどうなるんだろう、と


バスに乗って独りになった

スマホを取り出して
指がぎょーざちゃんの連絡先を探す


あのね
日向と影山くんが



なにしてるんだろう私

途中まで作成した文字を消した


大変なのは
日向と影山くんだけじゃない
私だけじゃない


家庭の事情
ぎょーざちゃんも大変なんだ




一生懸命だからぶつかる
わかってるけど、

このままバラバラになっちゃうんじゃないかって漠然とした不安だけが残った。










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