コート上の天使

□保護者
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最後に客が来たのは何時だったか

もう誰もいない店内
たまに外を車が走る音が聞こえる

閉店の雰囲気が漂う

静かだ


店も
…昼間の影山も


スパイカーが打ちやすいトス以上に良いトスなんてない

基本に立ち返って閃いた策だった


通り過ぎるな 止まれ
なんて
今更ながら
とんでとねぇこと指示したな…俺


けどアイツ
やってみせます
って

やってみます、じゃなくて

静かに言いやがった


でも
これで進むべき方向は決まった


あとは
ぎょーざだ


正直
家庭の事情とか使われるとどう出ていいかわからん

それがわかっててあいつは使ってんだろうから






このまま、なんてことねーよな
折角やっとバレーの本当の楽しさに気づけたのに



かちりこちり
時計の秒針が動く


一瞬のことだった

引き戸が開け放たれ
転がり込むように入店してきた




「は…お、おい!」
『烏養さんっ』
「おま…ぎょーざか!」



ぜえぜえと肩で息をする
なんでこんな時間になんでこいつが
しかもなんでこんな緊張感

ちょうど考えていただけに
俺の心臓に悪い


持っているエナメルのバックは
パンパンに膨らんでいて
それを床に勢い良く でも丁寧に置いた


すうっと息を吸い込み
頭を下げた


『遠征サボってすいませんでしたっ!!』
「は!お前なに…ってサボったのかよ!!」
『すいません!』


見えるのはぎょーざの後頭部と
スカートを握りしめてる手


「…お前のことだから何かしらあるんだろうと思ってるよ」
『…わたしここでバレー辞めたくありません』
「当たり前だろ、辞めるってなんだよ」
『バレーが本当に好きになりました。だから』

ぱっと顔を上げて


『ここに置いてください!』
「…は?」
『ここに住まわせてくださいっ!』
「は…はあ?!」


住まわせて?
ここに?!

いや待てよ
頭痛くなってきた


「頼む…わかるように説明してくれ」
『…長くなるんですけど、』


それから程々に長かった


『ここに残るのはわかったけど、1人で居させるのは心配だって…』

お母さんの転勤
着いて行くかどうか
結果、ここに残ることを決めた


「まあ親からしたら…そうだろうな。野郎なら兎も角、」
『私、頼れる大人烏養さんしか思い浮かばなくて…』

「なるほどな…」
『あの、』

呼びかけられて思考から目の前のぎょーざに視線を戻す

『私、迷惑だってわかってます』
『わかってるけど、どうしてもここにいたくて…』
『私にできることならなんでもします。だから…お願いします!』


不意打ちで
じんっときた


バレーが好きだ
ここが、烏野が、好きだ


こんな必死こいて



もう
なんでもいいじゃねえか


こいつには
思い切りワガママを言わせてやりたいって
いつも思ってたじゃねえか


「…なんでもするんだな」
『はい!なんでも!』


全身から必死さを滲み出すぎょーざが
微笑ましくてしょうがない

俺も歳か?


「よし。わかった。部屋あまってるからそこ使え」
『えっ、え、え?ほんとですか?』
「ただし条件がある」


『はい、』




「全力でやれよ、バレー」
『え…』
「後悔しないよう楽しめ」
『…、』
「なんだよ」
『そ、それだけ…?』
「あ?なわけないだろ」
『は、はいっ』


そうだな
第一条件
守るべき条件はバレーを楽しむこと


二つ目は

「男、連れ込むんじゃねーぞ」
『は?!』
「壁薄いから全部聞こえるからな」
『つ、連れ込む…なんて…!そんなのしませんっ』
「何本気にしてんだよ」


は?冗談だったんですか?

声にはしてないが顔に書いてある
珍しい
何考えているか見てわかる






「…今度こそ全力でやれよ。好きな物わかったんなら」


きゅっと唇を結んで
こくこくと縦にうなづいた






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