コート上の天使

□帰る場所
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おにぎり食って自主練を始めてしばらく経つ。
来ると言われたぎょーざちゃんはまだ来ない。


日向はまだかなまだかなそわそわが滲み出てる
ま、そういう俺もそわそわか


とは言え東京合宿目前
試したいこともたくさんある
手に入れたい技術も

全員揃えば言うことないのになぁ



「っスンマセン!」
「おっけー!俺行くよ」
「イヤ!俺が!」
「いいっていいって」


田中が弾いたボールを取りに行く。

少しだけ開いた体育館の扉
隙間から見えたのは白い腕




「あれ、ぎょーざちゃん?!」
『ひっ…!す、スガさん…!』


扉に背を向けて座っていた。
あ、なんか懐かしい



「どうしたよ。みんな待ってるぞー?」
『待ってる、?』



視線が揺れた。
あれ、もしかして、



「スガさんどうかしたんスか、って…

て、て、天使さんっ!」



田中がでかい声出してみんなが俺たちに気がついた。
田中天使さん呼びやめたくせに久々に会って元に戻ってる。


横目でぎょーざちゃんの様子を伺うと、
俯いて珍しく視線がうろうろしていた。



「来たなぎょーざ!早くこっち来て球出ししてくれ!」
『え、え?…え、?球出し?』
「焼きさん早く!オレも!ファーストテンポ!トス!」
「あのさぁ、単語でしか会話できないの?あたまわるー」
「なんだと月島!」




わいわいがやがや
収集つかなくなってきて
ぎょーざちゃんも口を開いては閉じて。
手に持ったままのサポーターをいじっている。



「おーい、お前ら「ぎょーざしゃんっっっ!」…え?」




盛大に噛んだ
しん、と一瞬で静かになった


声の本人はなんだかぷるぷる震えてて
ジャージのズボンをぎゅっと握りしめていた
ただでさえ小さいのに、より小さく見える。
けど、声はとてもよく通った大きい声だった

噛んだけど、




「お、お…おかえりっ!なさいっ、ぎょーざちゃん!」



あ、そうだ
俺たち言いたいこと、伝えたいこと多すぎてごちゃごちゃしてるけど

これだ
一番言いたいこと




「言ったろ?みんな待ってるって」
『…私、全然みんなに事情話せてなくて、迷惑かけて、ちょっと、ていうかだいぶ気まずくて…』



あぁ、やっぱり
また余計なこと心配して
可哀想なくらい自分のことは2番目


ちらりと俺を見上げる視線
肯定の意味を込めてうなづいた



「おかえり、ぎょーざちゃん」


両手を広げて、おいでーなんて言ったら
素直に飛び込んでくれた



『うぅ、スガさん好き』
「おー俺も俺も」
「わ、私も!ぎょーざちゃんす、好きです!」



やっちゃんがひしっとくっついてきて
俺もー!と日向

流れでみんなくっついてきて
でっかい団子状態



「…なに泣いてるんだよ旭」
「なんかいいなあって」


おかえりってぎょーざちゃんの頭撫でてる旭はお父さんみたいな顔してた。
笑うぎょーざちゃんはいつも大人だけど、年相応で可愛かった。



「さ、全員揃ったし!始めるぞ」



大地の一言で雰囲気がまとまった俺たちは自然と自主練に戻っていった。



最後まで月島と影山は来なかった。










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