コート上の天使

□アオハルな王様
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拝啓 お母さん様

東京 いや、埼玉は暑いです。
みんなも練習頑張っていてとても熱いです。
バテ気味です。


シンクロ攻撃も少しずつ精度があがってきて、月島くんもなんだかんだ言いながらも一皮むけたような感じです。山口くんのおかげかもしれません。


そして、進化過程の変人速攻



「俺がトスミスってるうちはお前の練習になんねぇだろ」


影山くんが放った言葉に一同騒然


事件です
唖然
耳を疑ってしまった
  あの  影山くんが
日向を尊重している…!



コーチはしばらく新しい速攻は封印っていっていたけど、


「早く新しい速攻が見たいなあ…」


つい、本音が溢れれば
目の前の2人はぐりん、とわたしを見て

当然だ やってやる
と声を揃えてきたので、やっぱり2人はこうでなくちゃなと思いました。
ギクシャクした空気も忘れて




「研磨のトス打ってみたい!!」
「えー」


日向は
色んな人のトス打ちたい!
と飛び出して行って

対照的に影山くんは
ひたすら静かにトスの練習




「もう嫌だ、やめる…」
「え!もう?まだ5本だよ?!」
「べつに俺じゃなくてもイイでしょ…ほら、ぎょーざとか、」
『え?わたし?』
「おお…!焼きさん!おねがいっ」



大きすぎる声に意識はもちろん持っていかれそうで
それは私だけでなく影山くんも同じだったようで
思わず影山くんの顔を見ると、それはそれはなんとも…



「あの、影山くん、」



時間で言ったら数秒
いつもの眉間のシワはなくて
とても羨ましそうというか、寂しそうというか

影山くんは 
は、と視線を移して
なんすか、と


ボール出しの途中、どうしても聴きたかったことをついに


「余計なことかもしれないけど、
ぎょーざちゃんと…なにかあった?」



影山くんは目を丸くして、
視線をうろうろさせてから唇をきゅっと結び
しばらく視線は下げたままで、
あ、とか
いや、とか


ぎょーざちゃんではない私は考え込んでしまった影山くんになんと声をかけていいかわからなくて、言葉を待つことしかできないけど


絶対なにかあったし、なにか思うことがあるに違いないです


「…どう、すればいいか、わからない…」
「…へ?」



日向にトスをあげるぎょーざちゃんを一瞥して、また視線は下を泳ぎ始める



「どう、話せばいいのか…話しかけてもいいのか、」
「え、え?」
「もう、わからなく、なった…」



王様 傲慢
と影山くんのことを日向はよく言うけれど

今の影山くんはそんな言葉が全然当てはまる様子ではなくて

もしかしなくてもこれは
そういうことなんだ

影山くんは好きなんだ


電気回路のごとく繋がり閃いた答えに
今まではちょっと怖い影山くんが
片思いをしている男の子になった

なにこれ
全然怖くない


猛烈に湧き上がる気持ちをぐっと握りしめて
気がつけば私は割と大きな声で大丈夫!と影山くんに言っていた


「え、」
「影山くんは素直になればいいんだよ!」
「す、なお」
「な、なんでもいいんだよ…!難しく考えないでも!」


影山くんはまたいや、とか、それだと、とか
がつがつするとまた、とか



「おおっ…!すっげ!今のしゅんって来てぱって!」
『まぐれ!まぐれだから!そんな期待の満ちた目で見ないで…!』



悩みすぎて死にそうな影山くんのBGMに日向の底抜けに明るい声がミスマッチ



「い、今まで通り話しかけてみたらどうかな…」


何かを言いかけて、口をつぐんで。
開いた、と思ったら もう一本 と
ボールも一緒に投げられた。

2、3本投げたけど、どうやら望んだ通りのトスは出来なかったようで自主練を切り上げることになった。




『…日向さ、あっちにいっぱい先輩いるよ』
「え?あっち?先輩?」
『第三体育館行ってみ。たぶんいっぱいいるから』
「ありがとう!行ってくる!」


風のように目の前を通り抜けて外に飛び出した日向
かと思えばぎゅん、と戻って顔を覗かせる


「あれ、焼きさんは行かないの?」
『私は今日はもういいよー…』
「わかった!付き合ってくれてありがとう!」


行ってくる!とまた姿が見えなくなった。


ぎょーざちゃんだけになったなあ、と思うと同時に影山くんに目線が移るほど二人の行く先が気になっていた。

当の本人は並べたペットボトルを片付けながら、向こう側で日向が置き去りにした飲み物とかタオルを拾っているぎょーざちゃんをちらちらと見ている。


影山くんを見ている私と目が合わない時点で
このひとめっちゃ好きじゃん、と素直に口から出てしまいそうだった。


がんばれ影山くん
今がチャンス
思い切って話しかけちゃえば気まずいのもどうにかなるよ


拳に力を込めたのも虚しく、「やっと解放されたな!今度はこっちだぞー」と菅原さん達に連行されるぎょーざちゃん

待ってください!今!影山くんが!
なんて私に言えるわけもなくて

あの、と背中から声をかけられ
勝手に罪悪感にかられていたら肩をびくつかせてしまった。


「自主練、付き合ってくれてあざっした」
「え、あ、ううん…ぜんぜん、そんな」

少しの間が空いて

「…ぎょーざて、なに考えてるかわかりますか?」
「うぇ?うん?」


読めない質問をされてはっきりしない返事になってしまった

なにを考えているかわかるか

当たり前に答えは否
アイドル天使様の頭の中なんて私なんかにわかるわけない…!

どう答えたらいいのか、無い脳みそと回転しない思考を無理矢理働かせようとしてふと思い出した



「影山くんとけんかしたの…?」
『えっ、どうして?』
「え!ごめんなさい差し出がましいことを!」
『いやいやそんなこと思わないで』



私、ご本人に質問してたではないか
こんな大事なこと忘れていたなんて
影山くんごめんなさい


『喧嘩、私はしてないと思っているんだけど…そう考えると向こうはどうだろう』
「え?」
『連絡、とかあんまりしなかったから怒ってるかもなあ…。ほら、引っ越しのこととか』




つまり
影山くんは影山くんでよくわからないけど話しかけにくくて
ぎょーざちゃんはもしかしたら影山くんが怒っているかもと積極的に話しかけていなくて

考えているだけで自分のことではないのにどきどきしてきた
アオハルってやつだ



「影山くん!」
「うわっ…なんすか、」
「やっぱりぎょーざちゃんに話しかけたほうがいいと思う!」
「え、」
「待ってると思う!影山くんのこと!」


ぶっちゃけぎょーざちゃんが本当に待っているかどうか自信はない、ごめんなさい影山くん。
でも、君が行動しないとアイドル天使は攻略できないんだぞ!


うなづいた影山くんを見て月9なんかよりよっぽどキレイできゅんとする恋だと思った。



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