衝動という名の魔法
□リーマス・ルーピンの長所と短所
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「デイジー、あたたかいスープでも飲んだら?少しは気が紛れるわよ」
昼食をとる生徒であふれる大広間のテーブルについたデイジーに、リリーがスープを持ってきてくれた。
「ありがとう」
リリーには何でもお見通しなんだな、と感心しつつ、デイジーは湯気を出しているマグに口を付けた。
「まったく、リーマスったら。自分に恋人がいるってこと、忘れちゃったのかしら!私のデイジーにこんな顔させるなんて、許せないわ」
すっかり憤慨したリリーに、デイジーがぎこちない苦笑いを向ける。
――リリーが怒るのにも、ちゃんと理由があった。
事の発端は、今朝。最初の授業が始まる前の出来事だった。
デイジーとリリーの二人が、フリットウィック先生の「呪文学」の教室へ移動していたとき。唐突に、背後から鋭い悲鳴が聞こえてきた。
二人が振り向くと、栗色の毛の小さな女の子(おそらく1年生か2年生)がドスッドスッ、と鈍い音をたてながら階段から転がり落ちてきた。
リリーもデイジーも、あわててその女の子に駆け寄ろうとしたのだが、階段の上から降りてきた誰かのほうが早かった。他ならぬリーマス・ルーピンだ。
リーマスは、「大丈夫かい?歩ける?」と尋ね、その子が首を横にぶんぶんと振ると、その子の片腕を自分の首にまわして“乙女の憧れ”である所謂お姫様抱っこをやってのけたのだ。野次馬の生徒が冷やかしたり、頬を赤らめたりしていた。デイジーは、リーマスに抱きかかえられた女の子が真っ赤な顔をしているのを見て、無意識に唇を噛んでいた。
リーマスの行動は、監督生の模範とも言えるものだろう。でも、お姫様抱っこをする必要があったのだろうか。みんなの目の前で。しかも、その中にデイジーもいたというのに。
デイジーがそこにいてもいなくても、デイジーの気持ちにさほど変わりはなかったかもしれない。
だが、人伝に聞くより、目の前で見せつけられる方が、精神的にきついものがある。
この朝の一件のせいで、平凡だったはずのデイジーの今日が、180度ひっくりかえってしまった。
すぐ後の「呪文学」では、クラスで一人だけその日の呪文を成功させることができず、練習の宿題を出されてしまった。
その次の「魔法史」のいつもなら大方睡眠に充てている(リリーでさえ眠そうにしている)はずの時間も、ずーと目が冴えてしまっていた。
極めつけは「魔法薬学」では、ヘビの牙を入れすぎて、目覚まし薬がカチコチに固まってしまい、調合方法のレポート提出をくらった。
つい先ほども、ブラックかポッターのどちらかが投げつけた糞爆弾を見つけたマクゴナガル先生に、嫌疑をかけられ、リリーの弁護のおかげでやっと尋問をやり過ごしたところだ。
そんなこんなで、こうして昼食の席に着くころには、ご親切にもわざわざ今朝の一件を伝えに来た子達に、「お生憎ね、この目で見たのよ」と言ったり、憐憫の眼差しに、「気にしないで」と愛想笑いを向けたりするのに、すっかり慣れてしまっていた。