衝動という名の魔法
□リーマス・ルーピンの長所と短所
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いつの間にか紅茶を持ってきて向かいの席に座ったリリーが、ふぅ、とため息をつき、
「優しいのはリーマスのいいところだけれど...見境ってものが欠けてるのよね」
と批判した。
その通りだ、とデイジーは思った。
この際だから(全く惚気とかじゃなく)言うけれど、リーマス・ルーピンの長所は優しいところだ。
彼がチョコレートを常備し、誰かを励ますときに配っていることからも窺える彼の優しさは、誰もが認めるものだ。
けれども、完璧人間のリーマス・ルーピンにも、短所というものがある。その優しさを見境なく振りまいてしまうところだ。こういうのを“抜けている”ともいうのかもしれないが。
「そうなの。
......少しぐらい、私のことを特別扱いしてくれてもいいと思うのよ」
デイジーは、(後半は顔を真っ赤にして、消え入るような声だったが)リリーの批判に同調した。
――恋する乙女になら、分かってもらえるはずだ、とデイジーは、信じている。
恋人なのだから、少しは特別扱いしてほしいのだ。
百歩譲って周りの人と同じ扱いならまだ我慢のしようがあるのだが、今回の一件は、恋人のデイジーより他の子のほうを特別扱いしているのだ。
恋人だと思っているのは、私だけかもしれない。
すべて勘違いだったのかもしれない...。
デイジーの中に、疑念が広がった。
醜い感情だとは分かっていたが、嫉妬というものを、デイジーは抱いたのだ。
「私、リーマスの優しいところが好きなはずなのに...。
それがほかの人に向けられただけで嫉妬するなんて、ほんとに馬鹿...」
デイジーは目を伏せた。その瞳の奥から滲み出てくる熱いものを、決して流さないために。
デイジーはまるで誰かに首を絞められているかのように、苦しくなった。
下級生の子に私が醜い嫉妬をしたことを、もし、リーマスに知られたら...
彼はどう思うだろう?
嫌われるだろうな。
もしかしたら、それだけでは済まないかも。
卒業までずっと、話してもらえないかも...。
デイジーのあふれ出る感情が、ついにその瞳から零れ落ちた。