衝動という名の魔法
□リーマス・ルーピンの長所と短所
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「やあ、デイジー」
突然背後から現れたリーマスに驚いたデイジーは、スープの入ったマグをガシャン、と落してしまった。
デイジーが状況を理解するまでの間に、リリーはローブから杖を取り出して、陶器の破片に向けて振り(「レパロ! 直れ!」)、マグを元の姿に戻した。
そして、杖をもう一振りして(「エバネスコ! 消えよ!」)、こぼれたスープを消し、デイジーが引き止める間もなくそそくさと去って行ってしまった。
デイジーは、休みなく拍動する心臓の音をやけに大きく感じながら、濡れた頬をローブで拭い、おもむろに椅子から立ち上がって、リーマスの方を向いた。
デイジーは、何事もなかったかのように微笑んでいるリーマスの顔を見ると、なんだかみじめな気分になった。
デイジーが深刻に思いつめていた間、リーマスは普段と何一つ変わりない一日を過ごしていたのだろうか、と。
たちまちデイジーの中に抑えきれない感情が湧いてきた。
「リーマスの馬鹿!」
デイジーは、自分で自分の大声に驚いたが、怯みはしなかった。
大広間中の視線が自分たちに集まるのが分かったが、もうデイジーには気にならなかった。
「デイジー?」
リーマスには何の事だか分かっていないようだったが、デイジーは手の甲で何度も頬を擦り、涙など流すまいと必死に抵抗しながら続けた。
「私が...どんな思いしてたか...」
そのあとも言葉を続けようとしたデイジーだったが、しゃくりあげてしまって、自分でも何と言っているか分からない、ただのわめき声となってしまった。
突然、ぽんぽんとデイジーの頭をリーマスの大きな手が撫でた。
「デイジー?」
また、リーマスはデイジーの名前を呼ぶ。
涙でぐちゃぐちゃになった顔なんて、リーマスに見せるまいと、デイジーは頑として俯いたままだった。