sword
□31.隠す
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恋する動詞
31 隠す
※この話では、光忠の眼帯の下は火傷跡になってます。
薄く開いた障子の隙間から入り込んでくる月明かりが、すみれ色の水晶を優しく映し出している。
ぼんやりと見つめていたら、ふいに彼の指先が僕の眼帯に触れた。
ゆるゆると表面をなぞるそれをやわく握れば投げられる不満げな視線に微笑みを返す。
「…お前はどんな時も眼帯をはずさないな」
「なあに、僕の右目見たいの?」
くつくつと笑いながらの言葉に、けれど長谷部くんは真面目な顔で頷いた。
ーああ困ったな、まだ見せるつもりなかったんだけど。
逡巡が顔に出ていたのだろう、長谷部くんは少し不安な顔をしてうつむいた。
その顔はちょっと、ずるいんじゃないかな。
「…別にお前が嫌がるのを無理に暴きたい訳じゃないんだ。いつか、気が向いたときで構わない。」
感謝と謝罪の代わりに抱き締めた。
縋り付くように僕の背中を掴んでくる彼に胸が苦しくなったけれど、やはり見せようとは思えない。
受け入れられないのが怖いのではない。
彼の優しさも心の美しさも理解しているのだ。きっと、慈しむように傷を撫でてくれる気がする。
でも、でもまだ覚悟が足りないのだ。
醜くひきつれた地獄の跡を見せる覚悟が。
そして、やわらかな心を持つ何よりも愛しいこの刀に、一瞬でも怯えられる覚悟が、足りない。