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□KEEP AWAY FROM...
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愛銀哀


神楽は今日もつまらなそうに一点を見つめている。その先には、受話器を持ったまま1人唸るこの店のオーナー、銀時がいた。

「あー、うー…、いや、でもなぁ…。」

ダイヤルを回す指を止め受話器を置く。しかしその数秒後にはまた受話器を取る。朝から銀時はその繰り返しを永遠に行っていた。
いい加減それを見ていると、神楽も新八も痺れを切らすのも容易く、それぞれ手に持っていた傘や箒で銀髪を叩きのめすのだった。

「いい加減うぜーんだよ!会いたいならさっさと行ってくりゃいいだろ!邪魔なんだよこの天パー!」
「そうアル!いつまでもウジウジしてるとマヨラーに盗られるネ!」

それぞれの怒声に背を押され、銀時は焼いたクッキーを片手に万事屋を出た。
神楽は再びつまらなそうに、窓から銀色を目で追う。

「何でアルカ。何で男がいいネ…。しかもずっと一緒にいられるわけじゃないのに…。私なら、ずっと一緒にいるのに。…わかんないヨ、銀ちゃん。」

――――――――――――


「いい加減放しちゃくれやせんか…。間違っても、攘夷に加担するこたァねーんで。」

赤い瞳が土方を睨みつける。全身に傷を負っても、四肢を拘束されていても。その沖田総悟という青年は、真っ向から土方と対峙していた。

「そういう事を言ってるんじゃねェ。万事屋とは付き合うなって言ってるんだ。…俺の元にいろ。」

土方は最後だと、最後の忠告だと告げた。それ以上自身を拒絶されると、何をしてしまうか、分からないと。
しかし、沖田は土方の足元に唾を吐き、冷たい目で見据えた。

「そんなん俺の勝手だろィ。俺ァ姉上の身代わりじゃねーんだ。いい加減現実見やがれ。」

土方は眉根を寄せる。一瞬泣きそうな表情になったのを、沖田は見ただろうか。
少し前まで、二人は愛し合っていた。それは、もう沖田の中では過去のこと。土方の中で、何かが切れる音がした。

「そうかよ…。」

土方は沖田の胸ぐらを掴むと引き寄せ口付ける。食い込む手枷の痛みと、思い焦がれる心の悲鳴に、涙の膜で沖田の視界は歪んだ。

『旦那…。』

――――――――――――

「銀ちゃーん…。最近どうしたアルカ…?」

銀時は窓の外を見ていた。しかし、心はそこには無いようだ。
神楽は相変わらずつまらなそうにそれを見る。

「あー…最近な、見ねーのよ。」

銀時の声はいつになく元気のないもので、神楽は不安になった。


――――――――――――

「なんで私、こんなところに居るネ…。」

神楽はあの後、真選組まで歩いていた。その呟きに自嘲気味に笑うも、手は勝手に動き、その固く閉じた大きな門を叩いている。

「おーい!サド出すヨロシ!銀ちゃんに会わせるネ!じゃなきゃ、銀ちゃん消えちゃいそうアル!」

何回叩いたか、神楽は額に青筋を浮かべると傘を門に向け構えた。

「うるせェェエエ!!何度も叩くんじゃねェ!!って、ぎゃああああ!!」

開いたところに銃弾がぶち込まれる。ギリギリで避けたが黒髪が数本散った。瞳孔は一回り開いているかもしれない。
そんな土方を突き飛ばし神楽は中に飛び込んだ。お目当ての人物を探し出し引きずっていくために。

しかし、探す必要は無かった。
神楽は目を見開き沖田を見る。


衣服は乱れ、顔や体中には傷や赤い跡が幾つもある。その手足は枷で自由に動かせず、瞳に光は無かった。そんな沖田は、紐で連れてこられたのか、裸足でそこに立っていた。

「な、なにアルカ、これ…。」

まだ幼い神楽にもわかる、その異様な様。震える唇から漏れたのはその一言だけだった。

「総悟は、俺の部下だ。てめぇらの上司の元にはやれねーよ。」

後ろから聞こえた声に、神楽は我に返って飛び上がり距離をあけた。そこにいたなら、今頃胴体と首はお別れしていただろう。本気で、風を切る音が聞こえた。

「市民に刀振っていいアルカ!?正気アルカ!?」
「うるせェ!総悟は俺の物だ!」

睨み合う2人がそれぞれの獲物を構えた時、銀色の光が差し込んだ。

「総悟!」

「銀ちゃん!」
「万事屋…。」

神楽は愛しい人の登場に安心するも、相手の視線の先が自分でないことに気付き、再び表情は陰った。
土方は土方で、銀時を鋭く睨んでいる。

「てめェ…、総悟に何しやがった…。」

低く小さく、しかししっかりと届いたその声に、土方の頬に汗が伝う。殺気に押しつぶされそうで、立っているのもやっとだった。

「…、ただ、ここに繋いで、他に行けないようにしてるだけだ。総悟は、てめぇにゃ渡さねェ。」

土方は刀を銀時に向けた。銀時も腰の木刀に手を添える。先に動いたのはどちらだったか。響いた金属音と、次に人が倒れる音だけがやけに大きく聞こえた。

「…銀ちゃん…。」

「…取り敢えず、総悟連れてくぜ。神楽、手伝え。」

銀時は地に横たわる黒を見下ろすと、その横を素通りし、同じく気絶し倒れている沖田を抱き上げた。

「けーるぞ…。」


――――――――――――

「ん…、ここは…。」

沖田は目を覚ますと、ここ最近で見慣れた、しかし久しぶりであるその部屋をぐるりと見回した。弱った思考では現状把握ができないでいると、タイミングを測ったかのように、襖が開いた。

「お、起きた?気分はどーよ…。」

隣に腰を下ろした銀時は、いつものように沖田の頭に手を伸ばす。

―――パシッ

「わりィ、旦那ァ…。俺ァ、汚れてるから…。」

弾かれ行き場を無くしたその手を、今度は啜り泣く沖田の背に回す。強く抱き寄せると、小さな抵抗が返ってくる。しかし銀時は大して気にしない様子で、ただ背を優しく摩っていた。
沖田が抵抗をやめ落ち着いた頃に、銀時は口を開き囁いた。

「汚れてねーよ。総悟は綺麗だぜ?」

唇と唇が触れ合うと、大きく見開かれた沖田の目からは、大粒の涙が次々と溢れ出す。止まらないと顔を覆う沖田に、銀時は微笑み胸を貸してやるだけだった。


――――――――――――

「仕方ないアルナ…。泣いてるガキから取り上げるなんて、私には無理ヨ。暫く、銀ちゃんは貸しといてやるネ。」

神楽は寄り掛かっていた襖から、音を立てないように離れた。その表情には一切の陰りもない。

「新八ィ!今日泊めるヨロシ!」

「えぇ!?銀さんとケンカでもしたの?」

「ちげーよ。大人のハカライ、アル。」


『貸すだけアル!いつか、銀ちゃんは返して貰うネ。それまで、せいぜい幸せ感じとけよナ!』


―――――――――――

昔のサイト[†哀銀愛†]から。
訂正に修整して、覚えてる範囲で再び投稿。
あれ?こんな感じだったよね?(-ω-;)))
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