座敷童子の住む船

□ろくわ
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ヴェレは船内を歩いていた。


「お、散歩か?」


すれ違う船員たちに声をかけられた。
ヴェレはムッとしたような、悲しそうな表情をして言った。


「お手伝い、させてくれないんです」


その言葉に、クルーたちは顔を見合わせた。


「お手伝い?」
「はい。まずは、オヤジ様のところに言ったんです」



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「グララララララ!俺のところはいい。他を当たれぇ。そういやお前ぇ、甘いモンが好きなんだってなぁ。ほら飴だ。持っていけ」
「わっ、ありがとうございます!」
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「その次に、マルコさんのところに行ったんです」



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「手伝い?書類整理なんざできねーだろい?俺はいいから、他のヤツのとこ行ってやれよい。ああ、なんか飲んでいくかい?ほらよ。飴もあるよい。持ってけ」
「あ、ありがとうございます」
ーーーーー



「その次はエースさ…エース、に会ったので、聞いたんです」
(あれ?エース隊長呼び捨て…?)



ーーーーー
「手伝い?いや、特にねぇよ。つかお前、俺に"さん"とか付けるな」
「うぇ?で、でも…」
「"さん"付けたら返事しねーからな!あと、敬語もいらねぇ!」
「よ、呼び方は、頑張りますが、話し方は…あの、クセなので…」
「…クセならしょうがないか。なら、"さん"は付けるなよ!」
「が、頑張ります…!」
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「それで、次にイゾウさんに会って…」



ーーーーー
「いや、特にねェなぁ。ああそうだ。美味い菓子があるんだ。ちょいと待ってな…ほらよ」
「ありがとうございます…」
ーーーーー



「ハルタさんに会って…」



ーーーーー
「手伝い?そんなのいいよ。それより、暇なら一緒に遊ぶ?」
「い、いえ!今日はお手伝いをすると決めているので!」
「そう?なら、また今度ね」
「はい!」
ーーーーー



「オルトンさんや、他の船員さんたちにも…」



ーーーーー
「手伝い?いいっていいって。そんなの」
「そうそう。そーゆーのは俺たちがやるから」
「それよか、飴やるよ」
「あ、ありがとうございます…」
ーーーーー



話し終わる頃にはすっかり項垂れて、ションボリとしているヴェレに、船員たちは顔を見合わせて苦笑した。
どうやらみんな、この新しい妹が可愛くて仕方ないらしい。


「それで!!」


バッ、と顔を上げて、話しをしている船員たちをヴェレは真剣な顔で見つめた。


「なにか!お手伝いは!!?」


船員たちは顔を見合わせて、「あー…」と声を漏らし、頬をかいた。


「いやー、俺たちこれから訓練だからなぁ」
「特に、手伝いって言われても…」
「つか、怪我するだろ」
「怪我なんてさせたら、俺たちが隊長たちに殺される…」


クルーたちは顔を青くして、「ない!」と声をそろえて言った。
それを聞いたヴェレはまたションボリと顔を俯かせた。


「あー、と、その、ほら、また今度、な?」
「飴やるからよ、元気だせって」


しばらく俯いていたヴェレは、ゆっくりと顔を上げて、飴を受け取った。


「ありがとうございます…」


そしてトボトボとまた違う方へと向かっていった。


「ん、ヴェレちゃん、どうした?なんか元気ないな?」
「…サッチさん」
「なんかあったのか?このサッチさんに話してみ」


サッチはそう言うと、ヴェレにニッコリと笑いかけた。


「お手伝い…」


ヴェレの声は小さすぎて、サッチは首を傾げた。


「ん?」
「お手伝い、ありませんか?」


おずおずとサッチの顔を覗き見るように上目遣いに見るヴェレに、何があったのか察したサッチは、ニッコリと笑った。


「じゃあ皿洗い、頼んでもいいか?」


サッチの言葉に、ヴェレはパッと顔を明るくさせて、首が取れるのではないかというくらいに首を縦に振った。


「やります!!」
「じゃ、一緒にキッチンに行くか」
「はい!!」



その後、一緒に皿洗いをしながらサッチはヴェレの今日1日のことを聞いていた。


(てかみんな、なんでそんな飴持ち歩いてんだ…?)


つくづく兄弟たちは妹に甘いと再確認させられたサッチだった。


(ま、それは俺もか)



ねくすと

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