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□正月のおせち 逢斗
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「お邪魔しまーす」

『はーい。』



ゆみの家はすごく大きい。アメリカのどこぞの豪邸並みに大きい。
それなのに、使用人も一人もいない。何故かゆみの家には親も、本当にネズミ1匹すら見当たらない。
加えて、この豪邸は常に清潔だ。いったいどうなっているんだろうか。



「いやー、お前んち相変わらず広いな!」

『ん、それより早く食べてってよ。』

「お??どこにあるんだ?おせちちゃん〜」

『えっと、リビングのテーブルの右端。』


いや…これ…テーブルって言わねぇだろ。
なんつーのかな。この長さはもはやテーブルではない。
今まで何も思わないようにはしてたが、もう言わせて、もとい、思わせてくれ。

ゆみの家にあるもの一つ一つが普通より何かすごいってどういうことだよ!



『…食べないの?』

「あ、ああ!食う!」

『…はい、こっちが上森料理亭の。こっちが赤藤グループの。で、こっちが…』

「はあ…へえー。うん、あ、それさっき聞いたやつ。うん、あーあの有名な。」



おせちどんだけ届いてんだよ!!!
ざっと今のところ20は越えてる。こんな大量に胃に入るわけねぇだろ!!



『はい、召し上がり。』

「あいよ…」

『…もしかして食欲ない…?』

「い、いやそんな事ねぇよ」



ちょっとこれを1日以内に食い尽くさなければならないと思うと今からでも胸やけが…。
あのテーブルじゃないテーブルも、3分の2埋め尽くされている。

量が尋常じゃない。




「いただきます…。」

『いただきます。』




あ、うまい。
うわぁ!このだし巻き卵うまい!

さすが料理亭だ。素晴らしく程よい。
硬さも甘さもすべてどちらに偏ることもなく均等に保っている。




『んー、これはうちの方がおいしいかな。』

「!?」




人からいただいた料理に格付けすんなっつの!
失礼だろ!…ていうかこんなに沢山、誰からいただいたんだ…?



3時間後



「う、うぐ、おぽっ」


かれこれ食い続けて、重箱は8箱目に到達した。
だが、もう限界が訪れた。



『うーん、この黒豆の味付けはうちも負けてない感じがする。』



は…はは…。ゆみの超人的な胃袋に感服いたしました。
なんだそれ、お前腹どうなってんの?



「うぷっ!」



やば、吐く…



『あ、逢斗!?』

「おえええええええ」

『えええええ』


は、吐いちまった…。
しかもゆみの家でだ…。こんな…恥辱極まりないぜ…。


『大丈夫!?』

「く、食いすぎた…。」

『っぷ、』

「?」

『あっはっはっはっはっは!』

「な、なに笑ってんだよ。気味悪ぃな…。」


ゆみが俺の上半身を両腕で支えながら高笑いしている。
悪意のある高笑いではなさそうだけど…。


『いやぁ…逢斗、まさか全おせちの3分の1も食べてくれるなんて!』

「は…?」

『絶対逢斗ならうちが見てるからカッコつけるだろうなって思ってたんだよ。』




そうだ、俺はたいして食べる方じゃない。
コイツ…ワザとだったのか…!
俺に吐くほど食わせたのか、なんて酷なやつだ




『逢斗ってば可愛いね。』

「はあ!?」

『ハハハ…!』



ゆみが本当に面白いというように笑っている。
嫌がらせとか、そういう含みのあるものじゃなく。



「カッコつけて悪かったな。」

『こっちこそ、吐かせるまで食べさせてごめんね。』

「…やけに素直じゃん。」

『逢斗、可愛かったから。』

「…男がそれで喜ぶと思うなよ?」




お前の顔に吐き初めをお見舞いしてやろう。

あけましておえええええ、でとうございます。





END

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