HQ/影日

□カフェオレな日向ちゃんとコーヒーな影山くん
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「お前んちに行きたい」


いつものごとく、影山が誘う。

しかし、今日は少し違っていた。

本来のパターンなら、日向が影山の家に行くのだが、今回は自分の家に来るのだ。

少し掃除をして良かったと日向は内心ほっ、とした。


「うん!いいよ!」

日向は影山に誘われるのは好きだった。
自分には、さらりとストレートに言える、影山にあるものを持っていない。

自分が誘ったら、顔が真っ赤になって、小さな声で、ぼそぼそと呟いてしまうだろう。

だから、自分からはあまり誘うことはしない。



「お邪魔します」

「影山りちぎ?すぎんだろ!」

「あ?お前はアホすぎ」

「なんだとーー!!?」

「お前が俺の家に慣れたからそう思うだけだつーこと」



影山は実際、日向の家に来るのは初めてだ。

日向の話から、自分の家とはかけ離れた家だろうと考えていたが、正反対ともいうべき家で新鮮だった。


日向の家は、古風で昭和の生活を感じられる家だった。

洋風で現代的な自分の家と比べ、高くはなく、高さを横の幅へ増やし、面積を広くしな間取りだった。

右側の突き当たりの日向の部屋は、床が畳だが、勉強用のデスク、ベッドという、インテリアがわりと洋風なものだった。

「ごめん、これ持っててもらえる?」

日向が戻ってくると、お盆を持つように言われる。

日向は押し入れから、来客用の机を出してきた。
お盆を机に置く。

「カフェオレとコーヒー…?」

「あ、お前んのこっち!苦手だったらシュガーやミルクで甘くして」

と言われ、ブラックコーヒーのカップを差し出される。

影山自身はブラックの方が好きなため、特に反対する訳でもなくちびちびと飲み始める。


日向はぽつりと言う。

「…影山ってブラック飲めるんだ…」

「別に甘くてもいいけど、こっちの方が好き」

「…いいなあ、おれ間違ってブラック飲んだことあって、めっちゃ苦かったからあれ以来ダメ」

どうしたらそんな間違いするのだろうか。
心の中で影山は呆れる。

「…だけど、ブラック飲める人ってかっこいいなぁ〜って思って、飲めるようになりたいなぁ…なんて」

日向は照れくさそうに話す。

日向のこの姿にとくん、と影山の鼓動が上がるのは秘密だ。



しばし、沈黙が流れる。


当の日向は少しぷくっと頬が膨らんでいた。

最愛の恋人…相棒である影山がいとも簡単にブラック飲めるなんて。

なんだか負けたようですごく悔しい。


いたずらっ子日向は、どうしたらこの勝負に勝てるのか、思考を巡らせた。


もともとあまりない脳みそを絞って出した結果は。



「コーヒーを甘くしすぎる」


影山が自分で買った月刊バリボーのバックナンバーを読んでいるうちに甘くさせちゃおうと考えついたのだ。


今ならカップにも手をつけていないし、チャンスだ。

ミルクだとバレるのでシュガーにした。


音を立てないように静かに開け、さらさらとコーヒーに入れる。

2袋目、3袋目……と繰り返し、入れたシュガーは8袋となった。


他に甘くできないか探すと、ガムシロップがあった。
ちなみに、ガムシロップは3個入れた。

少し舐めてみたが、なかなかの甘さだ。

これは面白いと、元々カップに入っていたスプーンでかき混ぜていたが………



「……おい」


いつもより数段低い声とともに手が抑えられた。


*
影山はしばらくバリボーに集中していたのだが。

さらさらとした音やペリッとした音が鬱陶しく感じた。

最初は日向のカップからの音かと思ったのだが、ふと視線を移すと。


日向が自分のカップにガムシロップを入れていたのだ。


(…こいつ…まさか俺のコーヒーを…)

少し、よりもかなり嫌な予感がしたので、日向の制止に入ったのだった。



「あの…カゲヤマさん?」

「…俺のコーヒーになんかした?したよな?」

「…はっ!?別に!?じゃなかったら飲んでみろよ!」


そして、一口飲んでみると…

「…うえっ…甘すぎだろ!!」

「やーいやーい!!影山のばーか!」

さっきまでのコーヒーと明らかに違う味に顔をしかめる影山。

イタズラが成功した喜びの顔を浮かべた日向。

なる程。鬱陶しく感じた、あの音は日向が自分のカップにイタズラしていた音だったのか、と悔しいながらも気付く。


「……てめぇ、なんてことしたんだ?なあ?」

と、影山はとりあえず日向にアイアンクローをお見舞いする。

「いでででででで!!だ、だって…ズルイもん……」
日向のむすっと拗ねる顔に、またとくん、と鼓動が上がる。



「ブラック飲めて、すごく大人っぽいし…おれ、影山みたいになりたいよぉ…」

影山は日向がブラックが飲める自分に嫉妬らしい感情を抱いているということを知る。

照れくさそうに言っていたが、中では悔しがっていたのだ、と。

しかし、日向がもしもブラック飲んでいたら…どうにも変に見える。

日向はそのまま、いやもっと甘くてもいい。というか、甘くしろ。



「俺みたいになるな、決して」

「いやだ!!絶対に影山超えてやるもん!!」


「…お前はそのままでいい」

「俺が好きで、いつもぎゅって抱き付いてきて、表情がころころ変わって、ほっぺふにふにな今のままでいい」

「…お前に苦いもんなどいらねぇ」



「………?」
しばし考えていたが、

「………////」
意味が分かり、かあっと頬を染める。


つまり………

「ずっと子供みたいな姿でいろと…?」

「ん…まあ、そうだな」

「もう!影山のばか!!あほ!!」

「うっせ、ボゲェ!子供体温!!」

「なんだとぉ!!!」


ちゃっかり影山から子供宣言されたが、なんだかんだ影山にきゅん、と惚れた日向だった。



END*
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