HQ/影日
□You true like person?
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俺は、日向が好きだ。
好きなのに、日向は。
【You true like person?】
『……その…付き合ってほしい…っていうか…』
そんな歯切れの悪い告白をしたのは日向だった。
そのとき、俺を渦巻いていたよくわからない感情に名前が付いた。
「日向が好き」、だった。
その名前はストン…と心に浸透して、
『…いいですよゴラァ』
ちょっとした照れ隠しの付いた言葉で返した。
*
それから、1ヵ月が経つ。
俺達はピンピンのバレー部員だしバレーバカだし、なかなか「コイビトらしいこと」はできない。
だから、許された合間を縫って、できる限りの「コイビトらしいこと」はした。
不意に手を繋いだり。
小さな身体を抱きしめたり。
ふわふわな橙の髪の毛を撫でたり。
誰もいない道路で密かに2人で帰ったり。
全てのことが、「コイビト」になった俺達にとって新鮮なことで、そして、当たり前になった。
しかし、実は、1つだけできてない「コイビトらしいこと」がある。
それが…キス、なのだ。
やろうと言い出したとき、日向は不思議な言葉を紡いだ。
『おれ、本当に好きな人としかキスしたくねーから』
その言葉は、酷く俺を不安にさせた。
俺は、表面だけの「コイビト」なのか。
日向には別に恋人がいるのか。
日向が本当に好きな奴は誰なのか。
思い付く可能性や疑問は耐えない。
出来る限り答えを見つけようと先輩達に聞いても、
「…え?影山じゃないの?」
と当たり前に返すばかりだ。
*
「誰なんだよ…っ」
頭を抱える。
本当に、あいつは俺のことが好きなのか。
ただ遊ばれてただけなのか。
「…いやだ…信じたくない…!」
日向が、あいつが。
『おれ、こいつの方が好きだから』
「やめろ……!!」
『こいつが、本当に好きな人だよ』
そういう、ありもしない状況を考えるくらいには不安な心境だ。
最も聞きたくない言葉が日向から出ることを考えたら、視界が黒く染まった。
*
「影山!!」
「へ……おわっ!?」
頭に衝撃が走る。ボールが当たったようだ。
「大丈夫か?」
「…………はい」
順番を待つため、ふらふらとコートを出ていく。
「気をつけろ、って言っても…」
「影山、絶対意識上の空だよね」
「なにをしたんだ、日向…」
「…おい!影山!」
「…………」
休憩途中、日向が話しかけてきた。
やめろ、これ以上…
「なんか今日可笑しいぞ?」
「……わり…」
「…今日、部室で話したいことがあるから、先終わったら待っててくんない?」
「ああ…」
くそ…こいつ…!
突き飛ばそうとしてもできない辺り、俺はこいつのことが好きなのだと分かった。
でも、日向は…
*
「…ごめん、遅かった?」
鍵を先輩から貰い、自分が着替えた後、日向が部室に帰ってきた。
「いや、遅くねーよ。俺もそこまで早く部室きてねーから」
「そっか、良かった」
「…で、話ってのは?」
「お前、最近様子変だぞ?」
「ぼーっとしてたり、トスミスしたり…なんかあったのかよ?」
「…いや、なんでも…」
「…ないじゃないだろ?」
「………」
「前、風邪拗らせて倒れるまで部活来てたくらい、今の影山我慢してる」
「…なんか、分かるんだよ」
日向がにへっとやわらかく笑う。
ああ、見れて、良かった。
だが、俺は。
「…やめろ…近づくな!」
「っ…!?」
無意識に突き飛ばしていた。
日向が驚いた顔で見上げる。
「…な、んで」
「…我慢我慢言って…何が分かんだよ!!」
「そういって俺を遊んで!!!」
「一体、何が楽しいんだよ!!!」
「……かげやま?」
「大体…俺がキスしたいって言っても『本当に好きな奴しかしない』って…」
「お前の本当に好きな奴って誰だよ!!」
歯止めが効かなくなって、口から容赦なく零れる。
俺の本心が、ダムのように塞き止めていた感情が溢れる。
「………っ」
「…本当に好きな奴がいんなら、俺なんか…に…」
不意に頬に触れる、未体験の感覚。
ちゅっ、という音色。
これは、まさか。
「……本当に好きな奴なんて、影山しかいねーよ」
唇が触れた…そう、日向のキスだった。
「…おれ、ずっと恥ずかしがってた」
「…キスなんて、男子同士でやることじゃないって」
「…だから、あんな嘘ついた。好きな奴なんて、影山しかいないのに」
「…それが、影山をこんなにも苦しめてたなんて……その…ごめん」
「ひなた…」
「これからは、たくさん、き…きすして?」
聞いた瞬間。
グワァァァァァッとしたなにかが、身体中を巡った。
「煽っておいて、タイムとか言うなよボゲェ」
「…え、なに、んんっ」
驚いて口を開いた拍子に舌を入れ込む。
「ふうっ、うう、んっ」
限界を訴えて日向が俺の背中を叩く。
でも、離さない。
「んくっ……ふ…」
今まで叩いていた腕が下ろされる。
代わりに、日向の身体がびくっ、びくっと震え出した。
何事かと思い、口を離すと、
「………はあ、はあっ」
涙目になり、頬が赤く染まった見たこともない日向がいた。
とても甘い蜜のような瞳が、俺のゾクッとした感覚を作り出した。
「……ひなた?」
途端に日向は倒れ込み、寝息を立てた。
まだ時間はあるし、起きたら帰ろう。
日向の温かい身体を抱きしめて、自分も目を閉じた。
End*