短編
□頑張った理由
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私には幼馴染が二人居る。
一人は伝説やらなんやら言われており、現在シロガネ山で修行をしている(らしい)レッド。
そしてもう一人が元チャンピオンで現トキワジムのジムリーダーをしているグリーン。
そんな凄い幼馴染を持つ私はというと、ただのポケモントレーナー。私達は同じ日に同じ目的を果たすためにマサラを旅立ったはずなのに、随分と差が出たものだ。
二人はどんどん強くなって、どんどん先へ進んじゃって、旅を始めてからずっと私は二人の背中を追い続けてた。
でもね、それももうお終いだよ。もう背中を追うんじゃなくて、隣に立てるかもしれない。大好きな君の隣に。
「カイリュー 戦闘不能!よって勝者、チャレンジャー ナナシ!」
「っ.....!!やっ.....たぁあ!!」
勝ったんだ。たった今。
現チャンピオンのワタルさんに。
やっと二人に、大好きなグリーンに追いつけた。
思わずもっと叫びそうになるも、なんとか堪えてガッツポーズだけで抑える。ここまで、ほんとに長かった。
最後のジムリーダーのグリーンになかなか勝てなくて、やっと勝てて四天王に挑むも相手は四天王。やはり一筋縄じゃいかなくて何度も負けた。
やっとの思いで四天王に勝っても、チャンピオンのワタルさんにまた何度も負けて。その度にポケモン達を鍛えては何度も再挑戦して.....。そしてやっと、やっと勝てたんだ。
チャンピオンに勝ってもチャンピオンにはならないと前々から決めていたから、ワタルさんにはチャンピオンにならないときちんと伝えてから殿堂入りを済ませ、リーグ内にあるポケセンでポケモン達を元気にしてもらう。
これからどうしよう。誰に一番に伝えるべき?やっぱり親?それとも博士?.....いや、別に一番初めに誰に伝えようがそれは伝える側の私の自由だ。
なら、やっぱり一番目はグリーンに伝えたい。何度も負けてた私をずっと応援してくれて手助けしてくれたグリーンに、大好きなグリーンに、会って、報告したい。
そうと決まれば早速行動だ。
ジョーイさんのおかげで元気になったチルタリスをボールから出し、トキワまで連れて行ってと指示を出した。
*
「グリーン!」
「おー、ナナシか、って.....んな嬉しそうな顔してなんかあったのか?」
「あったよ!大アリだよ!私ね、やっとグリーンに追いついた!」
「は?俺に?」
意味がわからん。という顔をするグリーンを見て色々と言葉が足りてないことに気付き、とりあえず深呼吸をして落ち着く。
そんな私を待ってからグリーンが口を開いた。
「....で?何があったんだよ」
「私ね、殿堂入りしたよ」
「......ほんとか?今日エイプリルフールじゃねぇぞ?」
「ほんとだってば!さっき殿堂入りして、リーグから直行して来た」
「.....。っ〜.....」
「えっ?ちょ、グリーン?!」
急に手を頭に添えながらしゃがんだグリーンにビックリしながら急いでグリーンの近くに行き私もしゃがむ。
急にどうしたの?!え?どうすればいいの?!ってプチパニックに陥ってた私の頭をこれまた急に、グリーンがくしゃりと撫でた。
「っ....?グリーン?」
「おめでとう、ナナシ」
「っ.....!」
普段なら絶対と言っていいほど見せないとても優しい笑顔をしたグリーンに、きゅ、と胸が締め付けられる。
「グ、リ.....」
「よく頑張ったな」
そう言って撫でるのをやめないグリーンに、思わず抱き着きたくなる。
そうだよ、頑張ったんだよ。
君に追いつくために。
少しでも君に見合う女になるために。
君の隣に立ちたかったから。
それにね、頑張った理由はそれだけじゃないんだ。殿堂入りをしてから伝えようって思ってたんだ、私の気持ち。
だからやっと、伝えられる時が来たよ。
「ねぇグリーン」
「ん?」
「私ね、グリーンのことが好きだよ」
私がそう言うと、目を見開いて驚くグリーン。
暫く続いた沈黙にだんだんと恥ずかしくなってきて思わず顔を覆って俯く。いきなり過ぎたよね、うん。
少し反省を始めた私に届いた声
___俺だってお前のこと.....
思わずバッと顔を上げて目の前を見る。
そこには慌てて目を逸らして口元を片手で覆うグリーンが居た
.....ねぇグリーン。
それってさ、期待していいって....こと?