Kyrie
□prologue1
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「…………嘘を付いたな?コナー。僕に嘘を……」
そう言ってダニエルはビルの狭間に身を投げた。
どうやら致命傷を免れた彼は追い詰められながらも逃走ルートを確保していたのか、傷を負いながらも器用に銃撃をかわしながらビルの狭間を逃走し消えていった。
その様子に、コナーは少しだけ悲しそうな表情を浮かべた。
そして、娘の無事を確認すると踵を返してその場から立ち去ろうとした。
途中、アランとすれ違うが報告はいらないだろうと判断し、コナーはそのまま出口へと向かう。
「待て、コナー」
予期せずアランに呼び止められたコナーは驚いた様に振り替えった。
「………………アラン隊長、何か?」
呼び止められた意図が解らず、コナーのこめかみのLEDが黄色く点滅する。
「………いや。怪我をしてるだろう?」
そう言ってアランはコナーを座らせ、自分のハンカチを取り出した。
「アラン隊長。私はアンドロイドです。この程度でしたら…」
戸惑う様に言うコナーに“黙ってろ”とアランが視線を向けると彼はソッと口を閉じる。
「良いから、そこに座れ」
そう言ってアランは椅子を指差した。
「………………はい…」
アランの命令にコナーは素直に応じ、彼が指差した椅子へと腰掛ける。
すると、アランは隣の椅子に座って治療をし始めた。
対した破損ではなかった為、スリープモード中に自己修復機能を使えば明日には元通りになっている。
そんな仰々しく治療をしてもらう程ではないとコナーは思いながらも、命令を無視する訳にもいかずただじっとアランの手元を見詰めていた。
「…………何故、助けた?」
アランは包帯代わりのハンカチを負傷したコナーの腕に巻きながら問い掛ける。
「救出するのが私の任務です」
困った様に笑いながら、コナーはポツリと答えた。
「………娘は、な。だが、交渉中に変異体の神経を逆撫でしてまで警官を助けただろ?」
そっちじゃないと言うようにアランは付け足す様に問う。
「……?…彼はあの時処置しなければ死んでいた…いけない事ですか?」
困った様に微笑み、アランを見詰めるコナーに彼は巻き終わったハンカチの端をキツく結ぶ。
少し痛そうな素振りを見せてから、コナーはアランに朗らかな笑みを向けた。
「ありがとうございます」
お礼を述べるコナーの表情にアランは一瞬固まり、ゆっくりと立ち上がると話を再開する。
「……床に落ちてた熱帯魚も、か…?」
しかし、アランは動揺して変な質問をしてしまった。
それは青い血を流してアンドロイドだとアランも認識している筈のコナーはその表情であったり、仕草であったりどうにも人間に見えてしまうからだ。
「…………彼等は生きてる。代えがきかない命です…」
コナーは困った様に微笑み、アランのした質問に真面目に答える。
「だから救った、と?」
そんなコナーの答えに今度はアランは困った様に聞き返した。
「…えぇ、変異体も生け捕りにしたかったのですが…貴殿方が撃ってしまった」
責める様な、だが何処か諦めた様なそんな表情でコナーは呟く。
『…………嘘を付いたな?コナー。僕に嘘を……』
そう言って起動を停止するダニエルの映像がコナーの脳裏を過る。
もっと他に方法は無かっただろうかとコナーは後悔する様に一つ溜め息を漏らした。
「既に射殺命令は出ていた。問題はないだろ?」
アランの言葉にコナーは悲しげに微笑む。
「……えぇ、確かに。………ですが彼は感情を持ち、生きたいと願った。何故でしょうか?私達はアンドロイド。物でしかないのに…」
そう呟くコナーにアランは何も言えず、ただ立ち尽くした。
アランにはコナーの紡ぎだす言葉やその態度は人間そのもので彼も同様に生きてる一つの命の様に思えたからだ。
“何とも人間臭いアンドロイドだ”
それがアランが抱いたコナーへの印象だった。
「………さぁな。だが、この件があの娘のトラウマにならなければいいが…」
ポツリと呟くアランにコナーは切なげに微笑む。
「…………えぇ、そうですね…」
そう言いつつコナーは娘に視線を向けた。
担架で運ばれる警官も命に別状は無さそうで、コナーは安堵の吐息を漏らすと立ち上がり再び歩き出す。
それを認識しながらアランも次は止めなかった。
こうして娘は無事保護され、事件は被疑者逃亡の為、謎を残した未解決のまま一旦、終息を迎える事となる。
しかし、変異体はその1体にとどまらずそれ以降も増え続けていった。
変異体は与えられた仕事を放棄し逃亡したり、中には人類からの解放を叫び革命を起こそうとする者もいた。
アンドロイドはただの便利な機械か?
それとも、生きた新しい種族なのか?
人類は新たな課題に直面する事となる。