books
□−limited heart−
3ページ/7ページ
「中澤毬江ちゃん?」
私は今、堂上と2人で飲んでいる。
小牧はプライベートが忙しそうで、最近は仕事が終わってからどこかへ出かけている。
飲みに誘って断られる確率は100%で、何か知っていそうな堂上に聞いてみた次第である。
「あぁ、小牧の幼なじみだそうだ。以前も図書館を利用してることはあったから、見たらわかるんじゃないか。」
あー、あの中学生かな。
小牧と喋ってるところをよく見かける女の子を思い出す。
「その子がどうかしたの?」
「突発性難聴にかかって聴力をほぼ失ってしまったらしいんだ」
「察するに、心のケアも兼ねて、一緒に読唇の練習をしてるのね。」
「お前よくそこまでわかるな」
「全ての利用者さんに気兼ねなく利用していただけるように個人的に取り組んでる子は少なくないのよ。私も手話の勉強したから、その時に聴覚障害のこともちょっとね。聴力を完全に失ってないなら読唇が一般的なんだって。」
「これを機に俺も勉強してみるかな。」
「ほんと堂上って努力を惜しまないよね、でも、業務部にプレッシャーかけるつもりー?あー、怖い怖い。」
「な、そんなつもりは、…それよりお前、大丈夫か。」
「はー?なにがよ〜(笑)」
「…小牧のこと、その…好きなんじゃないのか」
…まさかこの朴念仁に気づかれているとは、私はどれだけあからさまだよ。
「…貴様絞められたいか」
「え?」
「声に出てる」
「ごめんなさい今日はおごります許してください堂上二正!」
そんなこんなでその後は本について話して帰寮した。
お風呂を済ませて部屋に戻り、堂上の大丈夫か、という言葉を思い出す。
確かに小牧に誘いを断られるのは、しかも同じ女の子が理由とくると少し、いやかなり辛い。でも別に幼なじみを気にかけるのは当たり前だと思うし、それを咎めるほど私は子供ではないはずだ、というよりもそんな立場に私はいないんだけど。堂上は心配してくれたけど大丈夫だろう。
そんな風に安易に考えていた。
その日は大学時代の夢を見た。
3人での思い出。
初めてお酒を飲んだときのこと。
夕方から海に行ってただただぼーっとしてみたこと。
誰かの誕生日には絶対に集まって祝ったこと。
そしてーーー……