ツインテールと歪んだ日常

□第三話
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60階通りに来るまでに女の子にナンパされた回数は二桁に登り空はカウントを完全にやめていた

「(総二の時はこんなこと無かったのに……)」

男の子として生活をしていた頃は逆ナンなんてものとも無縁の生活を送っていた。
それがこの姿になって都会に出た瞬間ナンパ祭りだ。
都会の人は女の子と見れば誰でも彼でもナンパするのだろうか。見境が無さすぎて恐すぎる。

ふらふらと60階通りの風景を見ていると来良学園の制服が目に入る。
今この通りを通っている人間の半数以上が来良学園の人間だ。
ふと、視線の先に見知った顔があることに気づいた。

「園原……さん?」

彼女園原杏里は同じ制服を着た三人の女子に囲まれていた。
空は抜き足差し足忍び足でその路地に少し入ったところにいる集団(っていっても四人)に近づく会話が聞こえるところに来ると足を止めた

「あんたさ、張間美香が居なくなったのに随分とでかい顔してるみたいじゃない?」
「……」
「クラス委員になったんだって?なに優等生ぶってんの?」
「なんとか言えよ。中学の時は美香の腰巾着だったくせしてよー」

いじめだった。しかも古典的な。

さて、空はパッと見て杏里が被害者なのだと見るとやはり同じクラス、しかも同じクラス委員ということもあり、助けるべきなのだろうと思うがどうしたらいいのかわからない

実力行使か?相手は女の子だ。流石にそれは……
話し合い?いや、そんなものでおさめられるの?

こ、ここはいじめに気づきませんでしたーって感じで割り入っていってうやむやにしよう!

そう決意して空が一歩踏み出そうとした

肩に手が置かれて足が止まる。

「?」

首を傾げて振り向くと、男の胸元。黒い
少し冷や汗を流して顔をあげると、一度この町で見た顔がそこにはあった

「イジメ?やめさせに行くつもりなんだ?偉いね」

黒い人、折原臨也は感心したような声を出すと空の手を握って前に進み始める。

「えっ、ちょっ、ちょっと」

空の困惑した叫びに四人の女子はこちらを見る。
臨也は空の肩を押すように前に押し出す。

「おわっ、そ、園原さんさっきぶりだね。」
「な、なんですか?」

いじめっ子の一人が空とその後ろにいる成人(おそらく)男性に向けて怯えたように口を開く
空は入学2日目にして来良学園にファンクラブをつくられてしまうほどの人気者だ。(本人は気づいていない)
空に何かすれば学園内の殆どが登録したファンクラブを敵にまわしてしまう。
折原臨也に怯えたのは成人男性がいること。第三者に見られたことだろうか。

「いやあ、よくないなあ、こんな天下の往来でカツアゲとは、お天道様が許しても警察が許さないよ」

冗談みたいな言葉を吐きながら臨也はいじめっ子達にスタスタ近づいていく。

「イジメはカッコ悪いよ、よくないねえ、実によくない」
「おっさんには関係ねえだろ!」

本性を表したのか虚勢を張っているのか、いじめっ子は臨也を怒鳴りつける

「そう、関係ない」

臨也はニコニコ笑いながらいじめっ子達に向けて宣言する。

「関係ないから、君達がここで殴られようがのたれ死のうが関係ないことさ。俺が君たちを殴っても、俺が君たちを刺しても、逆に君達がまだ23歳の俺をおっさんと呼ぼうが、きみたちと俺の無関係は永遠だ全ての人間は関係していると同時に無関係でもあるんだよ」

空は臨也の長い演説を聞いて「(この人、おっさんって呼ばれたのきにしてる?)」と、思った。

「はぁ?」
「人間って希薄だよね」

意味のよくわからない事を言う臨也はいじめっ子に近づく。
空の目が銀色の光を一瞬とらえた

「まあ、俺に女の子を殴る趣味はないけどさ」

次の瞬間臨也は右手に小柄なバックを持っていた

「あれ?え?」

一見高級そうなそのバックを見ていじめっ子の一人が声をあげる。
自分の肩から提げていた筈のバックがいつの間にか臨也の手の中にある。
彼女の肩に引っ掛かっていた紐は腰の辺りで綺麗に切断されていた。

混乱しているいじめっ子達を余所に空は杏里を庇うように、正確には臨也の背中に回されてる左手を見せないように立っていた。

彼の左手には一本の折り畳み式ナイフを持っていた
先程空の見た銀色の閃光の正体だった。
臨也は手を背中に回したまま畳むとコートの袖にしまいこんだ。
そして彼は手に持ったバックから携帯電話を取り出した

「だから、女の子の携帯を踏み潰す事を新しい趣味にするよ」

そう言いながら臨也は携帯を宙に解き放つ。
カシャンと音がして不良女子高生の携帯電話というようなシールがベタベタ張られた携帯電話が転がる

「あッ、てめ……」

女と空が携帯電話に拾おうとして手を伸ばす。

しかし臨也は後ろ手で空の手を掴み女の指先を掠めるように足を携帯電話に降り下ろす

スナック菓子を噛み砕くような音がして割れたプラスチックの欠片が臨也の足の裏からはみ出した「あぁー!」と、いじめっ子の悲鳴を気にせずに、そのまま何度も寸分違わず同じ場所に足を踏み下ろす。
そして機械的な笑い声がその口から漏れ続ける

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
「ちょっ、こいつヤバイよ!なんかキメてるよ絶対!」
「キモいよ!早く逃げよう!」

携帯を踏み潰されたいじめっ子は放心したような目でその様子を見ていたが、他の女子二人に引きずられて大通りに消えてった

彼女達の姿が完全にきえたのを確認すると臨也は笑い声と動きを止め空の手を離し、何事もなかったかのように空の方へ振り向く。

杏里は逃げることもせず、ただ怯えた目をして空の制服の裾を掴み臨也を見つめている

「飽きちゃった。携帯を踏み潰す趣味はもうやめよう」

空はこれが正臣の言ってた5秒ごとに信念が変わるってやつかな。
なんか某月曜週刊誌にそんなキャラクターがいたような気がする

「偉いねえ、苛められてる子を助けようとするなんて、現代っ子にはなかなかできないマネだ。しかし、なんで俺が携帯踏み潰す時に手ぇ出してくるかなぁ。危うく踏んじゃうとこだったじゃん」
「……携帯電話は現代っ子には無いと困りますから」

臨也はちょっと予想外の空の反応に口元を歪ませた。
杏里が臨也の言葉を聞き驚いたように空を見ている。
空が携帯の心配をした所ではなく、いじめっ子達から救出しようとしたところに驚いたようだ。

「まっ、いいや。ところで竜ヶ峰空ちゃん、俺が会ったのは偶然じゃあないんだ。君を探してたんだよ」
「え?」

それがどういう事か訪ねようとした瞬間、嫌な予感がして臨也の方へ靡いていたツインテールを守るように抱き込む。

瞬間、路地の奥からコンビニによくあるゴミ箱が飛んできて臨也の身体に直撃。
ゴミが散乱し、ゴミ箱が落ちる

「がっ!?」

臨也は苦悶の声をあげその場に膝をつく
臨也は投げた人物に心当たりがあるのか飛んできた方を睨み付けながらよろよろと立ち上がる。

「し、シズちゃん」
「いーざーやーくーん」

あそびーましょと続くことなく終わった台詞を言った男に空と杏里は同時に視線を向けた。

そこにいたのはサングラスをかけたパツキンの若いバーテンダー。
パッと見て高い背は臨也以上サイモン以下でかなり高い「(この町背ぇ高い人多すぎ)」と、空は思っている
コンビニのゴミ箱を投げるくらいなら愛香にだってできたので空的には愛香以外にもそんなことできる人がいたのか程度の認識である。(愛香は格闘技ができたのでゴミ箱投げたりするのはあんまりやらなかったけど)

「池袋には二度と来るなって言わなかったけかー?いーざーやー君よおー」

このシズちゃんと臨也に呼ばれた男と臨也は知ってるなからしく二人とも嫌悪むき出しで殺しあいをはじめる。
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