ツインテールと歪んだ日常
□第一話
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「帰りたい……かなぁ」
空はついさっきまでのナンパラッシュから逃げ出し、この東京に自分を呼び寄せた人物を待っていた。
この池袋という地名は聞いたことがあったが、来たいと思ったことはなく人混みがあるような地域に住んでいた経験もない空は東京のコンクリートジャングルに一歩も踏み出すことなく心が折れかけていた。
だって知らない人に綺麗だと言われてぐちゃぐちゃにツインテールを触られたから……
「うぅん、来る前に結び直そうかなぁ」
と、空が自分のツインテールを支えている赤色のリボンに手をかけようとしたその時、聞き覚えのない声がかけられた
「よ、空!」
「?」
すっと目線を上げ声の主を確認する。
髪を茶色に染めていたが面影もある。
「正臣。髪を染めると傷めるよ。」
「俺の三年かけて考案したネタを使う前に解るとは。……愛だな!」
「……うーん。」
「悩むなよ!」
彼は紀田正臣。小学校の頃に別れた竜ヶ峰 空の幼馴染みだ。
とはいえ両親があれよあれよと整えたネットワーク環境の下気が向いたらチャットで話していてそこまで疎遠であったわけでもなかった
「久しぶりだなぁー。全然変わってねぇしなぁ、特にその髪形」
「当たり前でしょ。好きなんだから」
もう生まれた頃からツインテールと言っても過言ではない(文字通り)空は正臣の記憶のなかでも勿論ツインテールだった。
そんな挨拶もそこそこに正臣が群集の中へ向き直り歩を進め始めた。
「じゃ、行こうぜ。とりあえず外にで……よ……ぅ」
言いながら空に向き直った正臣はどんどん言葉尻が小さくなっていった。
「……?どうしたの?俺の後ろにお化けでもいる?」
「いや、お前髪、さっきまでぐちゃぐちゃだったじゃん」
「あぁ、だから結び直した。」
「嘘だろ。目離したの一瞬だぜ」
故郷では一度として空がツインテールを外で結び直すことはなかった。
たとえ小学校の体操着に着替えるときだって、髪を乱したことが無かったからだが。
ということで正臣の前でツインテールを結ぶのも今日が初めてなのだった