魔法騎士レイアース
□4・普通に振る舞えていたつもりだったのに
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海と風から逃げるように、離れて走って来た。
二人が見えなくなった大分離れたところで、走る脚を止めた。
「……はぁ……はぁ……はぁ……」
先ほど同様、大きく乱れた呼吸を柱と胸に手をつき整える。
(本当になにしてるんだっ。海ちゃんと風ちゃんに、あんな態度を取るなんて!)
息を整えながら、自分がしてまった行動の重要さに気づく。
海と風に取ってしまった行動に、光は後悔した。
光自身、どうしてこんな行動を取ってしまったのかわからない。
あれ以上、あそこにいて二人の口からランティスとの話を聞きたくなくて、あそこにいたくなかった。
ただそれだけの一念だった。
(……本当に……なにしてるんだろう……)
光は呆然とその場に立ち尽くした。
「ヒカル?」
その時、背後から声をかけられる。
「っ!!」
光はビクンと大きく肩を震わせた。
その声の持ち主は、一番逢いたくて、でも今、一番逢いたくない男だ。
瞬時に、緊張で身体が強張った。
なんと言うタイミングの悪さだ。先程までは、あんなに逢いたかったのに、今はその気持ちも完全に萎えてしまっていた。
光はゆっくりと後ろを振り返る。
「ランティス……」
呆然と彼の名を呼んで、彼を見た。
そんな光を見てランティスは不思議そうな顔をした。
だが光がそんな表情を見せたのは一瞬で、笑顔を作り身体ごとをランティスに向かい合う。
「お仕事は終わった?」
「あ、あぁ」
笑顔で訊ねてきた光に、ランティスはそう返事を返してゆっくりとこちらに歩いて来る。
光はこの動揺を気づかれてはいけないと必死だった。
上手く笑えているだろうかと内心動揺しながら、他愛もない話をして上辺だけを取り繕った。
気づかれてはいけない。普通にしなくては。黒い感情を知られたくない。
「──ヒカル」
珍しく光が話しているのを遮るように、ランティスが彼女の名前を呼んだ。
「え?」
光は驚いて、彼を見上げる。見上げた先に、ランティスがじっと光を見つめている。
真剣な表情となにもかも見透かされている様な瞳が、こちらを見つめているのと目が合った。
ドクン、ドクンッと胸が早鐘を打つ。動揺の心拍が一気に速まった。
「どうして、無理に笑っているんだ?」
「──!?」
ランティスの言葉に光は一瞬で笑顔を消し、戸惑いの表情に変えた。
その彼の一言に、ドクンッと胸の鼓動が一際大きく鳴った。
投げかけられた言葉に、光は言葉を詰まらせる。
普段通り笑えていたと思っていたのに。だが、ランティスに見抜かれてしまった。
光は自分の顔が青ざめていくのがわかった。
「わ……私……っ」
「ヒカル?」
目に見えて動揺する光に、ランティスは困惑の表情を浮かべる。
「私……私……ごめんなさい!」
光は泣き出しそうな顔をして叫んで、背を向けて走って行った。
「ヒカル!?」
先ほどの海と風同様に、自分を呼ぶを声が聞こえたが振り返らなかった。
去って行く後ろ姿を、ランティスはただ唖然と見つめた。
今の光は、完全に自分の心を持て余していた。
◆◆◆
逃げるようにしてランティスの前から走り去って来た光は、三人娘に与えられている部屋に駆け込んで勢いよく扉を閉めた。
閉めたと同時に、光は扉に背を力無く預けた。
(私、最低だっ。ランティスにまであんな態度取るなんて!)
あんな態度を取ってランティスを傷つけてしまったと言う思いから光は激しく後悔が襲い、自身を激しく叱咤し、泣きたい気分になった。
その時、開け放たれた窓から入った風が光の頬を撫でた。
顔を上げて、窓に近寄った光は乱れ狂う思いを抱えつつ蒼く澄み切った空をぼんやり眺めるのだった。