ネオロマンス短編小説

□とある御夫人の想い出話
1ページ/10ページ

 初冬のある日の休日の午後──。
 一階から二階に居る愛娘を呼ぶ。
 今日の三時のおやつは、横浜中華街の有名中華料理店の超人気中華まん。
 パンダとブタを象ったのが可愛くて、子供に大人気。食べるのがもったいないぐらいだ。
 ホカホカと熱い湯気を立てるピラミッド状に積まれた中華まんと飲み物を、ダイニングテーブルの上にセットする。
 そのお皿に盛られた中華まんを見て、あることを思い出し、思わず思い出し笑い。
「にくまんがおもしろいの? おかあさん」
 そちらに目を向けると、笑っている間に二階から降りて、縫いぐるみを胸に抱えて立ち、傍にいた自分と瓜二つの四歳になる娘が不思議な顔で母を見上げている。
「んー、そうね。ちょっと」
 微笑みながら、膝を折り屈んで娘の目の高さに合わせて向かい合う。
「恥ずかしいことをとてもリアルに思い出すのよ。とっても、とっても、恥ずかしいことをね」
 母の表情が微笑みから極悪顔に変わったので、娘が小さな身体(からだ)をビクッと震わせる。
「でもちょっと、甘い思い出だったりして、複雑なのよ」
 極悪顔から一転。今度はわずかに頬を赤らめて恋する乙女の甘い表情(かお)に変える。
 ころころと表情が変わる香穂子に、娘は困惑する。
「んー?」
 娘が再び不思議な顔をして、首を傾げる。
「おかあさんの学生(高校)時代のお話よ」
「それって、おとうさんとの?」
「そう。いらっしゃい真莉亜(まりあ)。あなたにだけ、教えてあげる。おかあさんとおとうさんはね、お互い第一印象──最っ悪だったの」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ