ネオロマンス短編小説
□盗賊の巻
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イノリが仕事を終えて、土御門殿に向かっていた。
角を曲がると、なにやら人だかりができている。
野次馬達が取り囲んでいるのは、土御門殿だった。
なにが起こっているのか覗こうとしたが、人垣でせいで中が見えない。
イノリは、近くで話に花を咲かせている子供たちに尋ねる。
「おい。この人垣は一体、なんなんだ?」
一人の子供が話を止めて、こちらを向いた。
「いきなり盗賊が来て、女の人を人質にとって立て籠ったらしいよ」
「そうか。ありがとよ」
子供から話を聞いた後、イノリは野次馬を掻き分けて前へ進む。
「通してくれ!」
もみくちゃにされながらも、なんとかして屋敷の入り口まで辿り着く。
目の前に詩紋の姿があり、イノリは駆け寄り声をかける。
「詩紋!」
振り向いた詩紋の目には、涙を浮かべていた。
「イノリ君〜。え〜〜ん!」
突然、詩紋に泣きつかれる。
「おい、おいっ。どうしたんだよ?」
「あかねちゃんが……あかねちゃんが……っ」
「あかねが、どうしたんだよ?」
「あかねちゃんが人質になっちゃったよぉ〜〜!」
「なにぃ────!?」
詩紋の言葉にイノリは驚愕する。詳しく事情を聞こうとするが詩紋は泣くばかり。
大泣きする詩紋を、連れて中に入って行く。
中に入ると他の八葉たちが集まっていた。
「お前ら!」
「イノリ!」
イノリが彼らに駆け寄る。
「あかねが人質って、どういうことだよ?」
「詩紋から聞いてねぇのか?」
「この状態で、どう聞くんだよ……」
イノリは自分に泣きつく詩紋を親指で指す。
「それも、そうだな……」
詩紋を見た天真は、引き気味で言った。
「それより、あかねは無事なのかよ?」
「今のところはね」
友雅は、いつになく真剣な顔で屋敷を見ていた。
「どうすんだよ?」
「今は、手のつけようがないね」
「真っ向から攻めれば、いいじゃんか!」
「そんなことをしたら、神子の身が危ない」
「泰明殿の言う通りだよ」
「じゃあ、どうすんだよ?」
全員が考え込む。そこで、天真がなにかを思い出す。
「確か、あの部屋から炊事場って、近かったよな?」
「ええ……」
それに永泉が頷く。
「永泉。炊事場って、扉開いていたっけ?」
「開いていたはずですけれど」
天真はなにかを思いついたようだ。
「お前ら、耳貸せ」
彼らは天真の提案に、耳を傾けるのだった。
一方、人質になったあかねは盗賊の様子を窺っていた。
(この人、私と同い年ぐらいかな?)