ネオロマンス短編小説

□虹空の書簡
1ページ/3ページ

 早朝。着替えて、蓮は部屋を出る。
 階段を下り、共同スペースの前を通って、エントランスへ向かった。
 そこにある集合ポストの自宅分の扉を開け、中から朝刊を取り出す。
 起きて、着替えてからの朝の行動の流れ。
 この後、共有ダイニングキッチンでコーヒーを淹れて、自分の部屋で飲みながら読むというのが、こちらに来てからの習慣となった。
 新聞を取り出すと、その下に一通の手紙が見えた。
 胸がトクンと鳴り、頬が火照る。
(──もう、来たのか。早いな)
 手に取ってみると、日本の消印が押されている。
 手紙の表の差出人を確認する。
 予想通り、香穂子からのものだ。
 春をイメージした若葉色と淡い桃色のやわらかい色調に8分音符がワンポイントで入っている封筒に、恥ずかしいと本人が笑いながら言っていた見慣れた少し右上がりの文字が並んでいる。ずっしりとした厚さを感じ、読むのが楽しみになる。
 十通目となる手紙。内容は他愛ない近況報告だが、彼女からだと蓮にはとても嬉しいものだった。
 特に十月、十一月に届いたものは、体育祭と文化祭の写真が数枚同封されていた。高校最後だけあって、取り分け気合い入れたと手紙に書かれてあった。
 どの写真にも季節をバックに笑顔の香穂子が写っており、心が和む。
 その彼女への思いを、音に乗せ、ヴァイオリンを奏で。
 その彼女への気持ちが、自分の音に、新しい色をくれる。
 少しでも、彼女に届けばいいと願いながら──。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ