ネオロマンス短編小説

□特技の巻
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 二人の間に特に会話はなく、静かな時がゆっくり流れる。
 詩紋の手先を見ていたあかねが、微笑みしながら口を開く。
「本当、詩紋君って器用だよねぇ」
 その一言に詩紋は頬を赤く染める。
「男の子っぽくないって言いたいんでしょう?やっぱり、おかしいよね。男の子のくせに裁縫が得意なんて……」
 自嘲気味に言うと、詩紋は顔を曇らせた。
 そんな詩紋にあかねは、首を左右に振った。
「別におかしくないよ。だってそれは、詩紋君の特技だもの」
「え……?」
 あかねの言葉に詩紋は驚き、手を止める。
「特技……?」
「うん。詩紋君が、神様から授かったもの」
「神様から……?」
「うん!」
 初めて、そんな風に褒められた。
 たったの一言なのに、自身の中を重く覆っていたコンプレックスがどこかに吹き飛んでいった。
 突飛なあかねの言葉は、詩紋の心に温かく包みこむように、彼の心に響いた。
 夕方になり、水干とジャンパースカート、ブラウスの釦はきれいに縫い直された。
「ありがとう詩紋君。じゃあ、また明日ね♪」
 お礼を言うと、あかねは自分の部屋に戻っていった。
 あかねを見送った詩紋は、夕方で赤く染まる庭に目をやる。
「神様からの、授かりものかぁ……」
 呟く詩紋の表情(かお)は、すっきりと晴れ渡るこの空のように清々しいものだった。



──終

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