If you disappear
□始まりと出会い
2ページ/3ページ
「あ、あの…好きです!」
「へ?」
好きって…俺のことが?
ある日、普段は使わない会議室に呼ばれたかと思ったら告白された。
その看護婦さんは仕事中に時折雑談をしていた人だった。
「も、もし…鏑木さんがよろしければ…お付き合「悪ぃ」
遮ると驚いた顔をしてこちらを見た。
「俺には…友恵がいるんだ」
白衣のポケットから銀色に輝く指輪を出し、じっと見つめた。
「え…、既婚者…なんですか?」
「あぁ」
看護婦さんは信じられないという顔で固まってしまった。
無理もないか。この病院に来て長いが、誰にも言ってないからな。
「娘もいるんだ。10歳になる娘が」
「そ、そうでしたか!」
あはは、と笑っているものの俺には無理して笑っているように見えた。
「でも、どうして隠してたんですか?」
「友恵は…もういないんだ」
「いない…?」
「あぁ、随分前に病気で…な。それから俺は医者になることを決めたんだ」
俺は…友恵を助けることが出来なかった。
友恵は重い病気だった。
しかしどこへ行っても、言われることは同じだった。
「治療法は今は⋯」「家で安静に⋯」「やれることを今のうちに⋯」
なら俺がなんとかしてやるって言って…結局無理だった。
病気のせいでどんどん身体が弱っていくのを見る日々はとても耐えられなかった。
とうとう寝たきりになってしまったが、友恵は…最期まで笑っていた。
「私のためにいろいろとありがとう。
楓をよろしくね」
そう言い残し、眠るように息を引き取った。
だから俺は……
「すみませんでした…」
「謝んないでくれ。俺の方こそ、悪ぃな。
でもまぁ、俺みたいなオジサンなんかより他にもっと若くてカッコイイやつ見つけろよー!」
後ろに向かって手を振りながら会議室を出た。
俺には友恵がいる。
俺は、一生愛してるんだ。
→