If you disappear
□始まりと出会い
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「〜♪」
今日の仕事も終わり、家へと向かう。
空には綺麗な満月が夜道を照らしていた。
夜道はだいぶ冷えていた。
先程コンビニで買った酒とつまみを楽しみに、足早に家へと向かう。
「ん?」
すると、視界の端に何かが入った。
なんだ?人?今はもう深夜2時だ。
見ていると、影はゆっくりと移動していった。
俺は自然とその影を追いかけた。
どこ行くんだ?なんだかフラついているように見えるが…。くそ、この道街頭が少なくて見にくいんだよな。
「ここか?」
着いたのは公園だった。昼間は子どもがいて賑わっている公園も、こんな時間に来ると少し気味悪く見えた。薄暗い公園を照らす灯りの下のベンチに人影を見つけた。
「こんな時間になにやってんだ?」
よく見えずに、怖い気持ちを抑え俺は歩を進めた。
近づくとだんだん見えてきたのは鮮やかな金髪だった。
座ったまま俯いていて、元気がなさそうだ。
雰囲気だとまるで職を失ったホームレスだ。しかし、服を見る限りそうではないらしい。ホームレスとは逆に、むしろ高そうなコートを着ていた。
「お、おい」
声をかけるとようやく俺に気づいたようで、ゆっくりと顔を上げた。
お、男?
顔を見てようやくわかった。俺はてっきり女かと…。いや、髪の長さからしたら男っぽいが…男にしてはすげぇサラサラだし…身体も細い気がする。
つーか…すげぇ髪クルクルしてんな。
しかし顔を見る限りモデルかと間違えるほどのイケメンだ。俺よりも10くらい若そうな男はそのエメラルドグリーンの瞳で真っ直ぐこちらを見た。
「なんですか?」
「あ、いや…なにって…」
なんですかって…ただ心配だっただけなんだが…。
いやしかし普通ここで聞くか?
どちらかというとこっちのセリフなんだが…。
「用がないなら、あっち行ってくれますか?」
「よ、用ならある!」
「…」
う…、その綺麗な目で睨むなよ。
というか咄嗟に用あるって言っちまった…。
「え、えっとな…こんな時間になにしてんだよ」
なんとか質問を絞り出した。
普通に思ったことを言ってみただけだが、これで少しは話してくれ…
「あなたには関係ないでしょう」
ねぇよな!!
可愛くねぇな!
こいつ心配されてるってわかんねぇのか!?
「だーっ!心配だから聞いてんだよ!」
「…心配なんていらないです。なにもないですから」
「こんな時間に公園にいて?」
「はい」
「本当に?」
「はい」
「どっか悪いなら言えよ?なんたって俺は医し「いい加減にしてください!」
「え」
少し声を荒げて立ち上がりこちらを鋭い目つきで睨みつける。
な、ななな…!なんでこんな怒ってんだ!?
俺悪ぃこと言ってねぇのに…!
するとその若者は小さくため息をつくと、背を向けて歩き出した。
「お、おい!」
文句を言おうとしたそのとき
「…!」
「危ねぇ!」
若者はフラついたかと思うと、そのまま倒れそうになった。
「だっ!」
間に合った…。
俺が支えたからよかったものの頭が鉄棒に当たるスレスレだった。
あと一秒でも遅れれば、確実に頭部を強打していただろう。
若者は腹部を押さえるようにしたまま苦しそうに目を閉じていた。
「大丈夫かよ…」
「は、離してください」
おぼつかない足取りで立ち上がると鉄棒を掴んだ。
…その様子を見る限りは、足が悪いというわけではないな。
「それじゃ一人で帰れねぇだろ。家まで送ってくぜ。ここの近くなの「いいです!お節介です!」
息を荒げながら怒ると、急に走り出しどこかへ行ってしまった。
大丈夫なわけねぇだろ…。
明らかに様子がおかしかった。
こんな時間に公園にいるのも変だし、なにより…
「なにかの病気か?」
この街に住んでもう随分経つが、あの顔を見るのは初めてだ。
家もわからねぇから行けねぇし…。
しかし病院で見てもらった方がいいのは確実だ。
なんとか出来ねぇかな…。
あの様子じゃ、たぶん相当悪化してからしか来ねぇ気がする。
「はぁ…なんとか……だっ!?」
もうこんな時間かよ!?
時計を見れば午前3時を指していた。
急がねぇとゆっくり出来る時間がなくなっちまう…!!
「やっべ…!」
猛ダッシュで帰り、家に着いた頃には寒い冬なのに汗をかいていた。
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